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10分間のエース  作者: 橘西名
インターバル(十有二月学園編)
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01:天野と永田

十有二月学園編スタートです。



 バスケ部のない竹春高校と全国ベスト四の赤坂高校との試合が行われたことは、予想以上に多くの学校が知ることとなった。


 赤坂高校は全国区の選手から世界レベルの選手に成長した長岡萌のいる高校として、今年のインターハイの優勝候補の一つにあがっているほどの強豪校だ。


 しかしこの試合が注目された本当の理由は、対戦校が竹春高校だったことにある。


 なぜなら去年の地区予選準決勝戦で対戦校が反則さえしなければ、間違いなく優勝して全国大会でも活躍できた高校として由那たちの前の代の竹春高校は密かに知られていた。


 永田亜佐美や天野箕五子、風見鶏一姫のいる十有二月学園と由那たちの先輩にあたる人たちとの試合の物語。


 時間でいえば約一年前のことになる。





 永田亜佐美が卒業した明星中は、地方では強いといわれる女子バスケットボール部のある中学校だ。


 夏と冬の大会では、地区予選以上県大会以下、全国大会には手が届かないのが何年も続いている。


 そこには、中学からバスケを始めても試合に出ることができるチャンスがあるということだ。


 亜佐美は、同年代の子もほとんどいなかった地元の田舎を離れ、幼い頃から少し興味のあったバスケ部目当てでこの学校を選んでいた。


 幼い頃から年下の子供たちに慕われ、勉強も運動もできる方だったから、中学生になってすぐにバスケ部のレギュラーになれるものと思っていた。


 その自信の源になる彼女だけの技は、小学生が遊びの中で覚えたとは思えないほど強力だ。


 チームスポーツで個の力が試合を支配出来るほど突出する事は少ないが、彼女のそれはその極めて少ないケースに入る。



 “どんなに遠くからでも入るシュート”



 それが、永田亜佐美が唯一できるバスケットで、彼女の中に残ったものだった。





 ***

 この春、中学の時と同じように田舎で暮らす幼馴染たちより一年早く高校生になった永田亜佐美は、十有二月しわす学園高等学校に入学した。


 去年出来たばかりの十有二月学園は、校舎が新品同様で全く使われていないところも多くあった。


 すでに学校にいる二年生の先輩も一学年上の人しかいないため校舎の中は一見ガラガラだ。


 文武両道を掲げるこの学園に入学した生徒は、それなりの結果を出している。


 一期生では、一年の夏から今まで生徒会長をしている人は全国模試で一桁に入る才女。


 今年入学した人にもアメリカからの帰国子女や運動部を中心に大幅な実力アップのための有名私立中学からの推薦組がいる。


 その内の一人に選ばれたのかどうかは分からないが、推薦入試で入学した永田亜佐美は、基礎体力だけなら並より上、学力も塾に通っているような勉強のできない人よりはいい成績を残している。


 全国模試で言えば二、三教科だけなら三十番以内に入るくらいだ。


 亜佐美の座る席に、人畜無害そうな女子が声をかけてきた。



「はじめまして、天野っていいます。数少ない元バスケ部同士仲良くしてくれると嬉しいです」



 天野は手を前に出し握手を求めてくる。


 それに応えるように握り返すが、内心は複雑な気分だった。


 それは自己紹介をするよりもずっと前から、亜佐美は天野のことを知っていたからだ。


 創設二年目で運動部の強化を図る十有二月学園バスケ部の特待生として、全国大会出場経験のある碧南中学からきた天野箕五子は、そこそこ名の知れた選手だった。


 初対面ということで敬語を使うが、それに慣れない亜佐美はタメ口で話してもらえるように伝える。



「こちらこそよろしく、永田亜佐美よ。元バスケ部っていっても、高校からはマネージャー志望だけど」



 大概人見知りな亜佐美の横でニコニコしながら天野は自分のあだ名をいう。



「私の下の名前が箕五子っていうんだけど、ミイって読んでくれると嬉しいな。中学のときはみんなにそう呼んでもらっていたから」


「……考えておくわ。ほら先生が来たみたいよ」



 ガラッと教室の戸があけられ、二人の会話は中途半端に中断させられる。


 手を振って自分の席へ戻る天野を見送りながら、座ったままの亜佐美は、実際に生で見た天野箕五子という少女のことを考えていた。


 女子高校生の標準通りの背格好をしている亜佐美からみても天野は小さめな部類の子に入る。


 高校でもバスケットを続けるなら少し難しいと、天野の中学時代のプレイスタイルを知らない人からすれば思ってしまうかもしれない。


 背格好だけでなく見た目だけでわかるくらい筋力もほとんどなく、他の人より足が早いわけでも、超絶テクニックで翻弄して相手を抜きさることもしない。


 ならどうして、と言う問いから、亜佐美の中ではある答えが浮かんだ。




 ――あれで全国区とか。全く意味が分からないわ。




 亜佐美は、その日の放課後はすぐに家へと帰った。


 翌日には部活動の簡単な説明があり、放課後からは仮入部が始まった。


 去年は一学年しかいなかったため部活数がそもそも少なく、新しく部活を始めるために最低でも五人集めるのに四苦八苦する人が垣間見える。


 その中を素通りして亜佐美と天野は体育館で再会した。



「ここで会うんなら教室から一緒に来ればよかった」


「高校生にもなって誰かと一緒に行動するのは慣れないわ」


「あはは、変わっているね」


「そんなことはないわ。よっぽど天野さんのバスケットの方が普通すぎて変わっていると思うわ」



 こうなることを大体予想していた二人はしばらく他愛のない会話をしてから本題に入る。


 体育館には他にもバレー部やバトミントン部が集まっていたがバスケ部を新しく作ろうと集まったのはこの二人だけだ。



「バスケ部を作るにしても人数が足りないわけだけど」


「そんなものは身体を持て余している女子を適当に連れて来ればどうにでもなるわ」


「それじゃあ、それで行こうか」



 さっそく二人は二手に分かれて三十分後にまた同じ場所で落ち合うことにする。


 三十分後、亜佐美は初心者を三人連れてきて、天野は初心者一人と部の申請書数枚だけを持って集まった。



「形だけならどうにか集まったわね。いろいろ面倒だからいうけど、部長は天野で副部長は保留よ」


「えー、永田さんの方が私よりしっかりしていそうなのに」


「あのね、どこの世界にマネージャーが部長の部活がありますか? はい、ありませんね」


「漫画の中ならありそうじゃない?」


「ここは現実だわ」


「ならしょうがない」



 こうして十有二月学園女子バスケットボール部は選手五人、マネージャー一人でスタートすることになった。


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