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10分間のエース  作者: 橘西名
高校生編(竹春高校)
62/305

42:これから(終章2)

 ――あの試合の最後。


 残り三十秒を切って由那は長岡を抜けなかった――いや、抜きに行かずに後ろまで走ってきていた滴にパスを出した。


 パスを受けた滴はスリーポイントラインで踏み切ってシュートを放つ。


 そのボールの行方は――――。


 滴は帰宅部になった今もバスケを続けている。


 それは何か引っかかる思いがあったからだ。


 しかしそれに明確な答えはまだ見つかっていない。




 バスケ部のメンバー内で、大塚栄子は滴や由那、愛数のいる教室によく遊びに行っている。


 そのため滴は栄子と、由那は愛数と話すことが多いが、同じクラスだというのに部活外だと滴と由那の接点はほとんどなかった。


 栄子からは陸上部の話題くらいしかなかったので、あの試合で女子バスケットボール部の廃部が決まってからのことを滴は知らない。ただ一つ聞いているのは、由那は男子とたまに練習をしているらしいということだけ。


 しかし昼になると姿を消し、クラスの子たちとのバスケに一度も顔を現さない謎はよくわからなかった。


 そんなとき職員室前の掲示板の張り紙を見つけた。


 この掲示板は各部活動の連絡用に使われているのだが、実際にどのようなものが張られているのか見るのは初めてのことだった。



 その日の内に滴は由那と待ち合わせをして会った。


 それは張り紙の内容を聞くためだ。



『竹春高校女子バスケットボール同好会』



 掲示板にはそう書かれていた。


 部活がだめなら同好会から出発しよう、と由那が頑張っていたのは、昼休みに姿を消していたのと無関係じゃないはずだ。



「そのメンバーに私は入っているの?」



 その質問に由那は静かに答える。


 この先も彼女達は別々の道を進むのかもしれないし、一緒の道を歩むのかもしれない。


 三咲は柔道で個人・団体の両方で全国を目指し、栄子は高校女子の短距離の日本記録を狙える。愛数も由那と一緒に勉強ができないツートップとはもう言われないようになった。


 彼女達が出会ったのはバスケットボールという一つのスポーツで、由那という一人の少女のもとだ。


 このチームに最も遅く合流した滴は由那に聞いた。



「私は、中学でバスケをしていたけど高校でバスケはやらないって決めてた。それでも私が今またバスケをしているのは由那のおかげ、なんだと思う」



 ガラじゃないと思いつつも言葉は止まらなかった。



「だからこそ由那にはちゃんとしたところでバスケをしてもらいたいって思う。試合のときの由那はいつもより何十倍もかっこよかったから」



 バスケをするのは学校の部活だけでなく、今では多くある高校生だけで編成されるような地元のクラブチームでもできる。


 現に県大会で上位に食い込むチームは、十有二月学園のように選手を集めた私立高校のチームかクラブチームというのが現実である。



「ごめんね。でも私はクラブチームには入らないよ」



 滴は由那の過去を知らないが、なんとなく学校の部活とクラブチームは違うのも分かる気がしていた。


 それでも自分の中のモヤモヤを消すために、滴が認めた彼女には相応の場所でバスケをしてもらいたいと思ってしまう。意地になって説得しようとすると、そこへ他の人たちの声が入ってきた。



「まあ、由那にもいろいろあるんじゃないの」



 生意気なちびっ子は伊達めがねをくいっと上げて腰に手を当てていた。


 このところ眼鏡キャラにハマっているらしい。



「私は柔道でもバスケでも、もう負けない」



 柔道着の上からバスケのユニフォームを着る大柄の女子はとにかく違和感しかない。



「大会が終わったら、ドリブルもできるようにする」



 練習熱心な子は、陸上用スパイクの他にバスケのバッシュも手に持って両手がふさがっている。



 滴はその面々を見ていたら、ここまで考えていたことを忘れてしまった。



「結局この五人は揃っちゃうのか。なんだか気を回しすぎて、バカらしくなったわ」



 もう少し、由那には付き合ってもらおう、と滴は言いかけていた言葉をしまう。


 真面目に悩んでいた自分がバカらしくなったというのも半分くらいはあるが、この五人がいればバスケはできるのだ。


 久しぶりに五人全員が揃い、由那が瞳に涙を溜めて嬉しそうな表情をしているのを見て四人も釣られて顔を綻ばせた。



 こうして竹春高校女子バスケットボール部、あらため竹春女子バスケ同好会は、この五人で再出発する。






 ***

 田崎由那は家に帰ると二階にある自分の部屋からベランダに出て、そこから屋根の上にあがってぼんやりと空を眺めていた。


 そこで考えていたのは、バスケ部のユニフォームが五番からしかなかったことだ。


 前いた人が記念で持って帰ったとしても不思議ではないが、バスケットボールのエースナンバーをあらわす四番のユニフォームがないというのが気になっていた。


 屋根の上には、ほどよい段差が作られていて、それは誤って彼女が滑り落ちないように両親の優しさで作られている。


 由那はボーとしているとそのまま寝てしまうことがよくある。


 この日も横になって目を閉じたらすぐに眠りに落ちていた。



 そこで彼女は夢を見る。



 由那は竹春高校のバスケットコートに立っていた。


 味方からのパスを待つ彼女は、彼女の代名詞でもある相手の逆を突くフェイントでフリーになると、そこへパスを出してくれる人がいた。


 ぼんやりとしか見えないが、その人が着ているユニフォームは行方不明の四番。



 この新しい仲間の予感を、日が落ちてから母親の声で目覚めた由那はきれいさっぱり忘れていた。



 ――地区予選の出場申請期限まで残り二週間に迫っていた。





 竹春高校編 END

これにて竹春高校編は完結になります。

長い間、読んでいただきありがとうございます。


今後の展開としましては、友人間で相談しているのですが、基本的には竹春高校一本でこちらは進める予定ですが、その分の設定&簡単な筋道を完成させるまでは他の高校編を挟み予定です。



候補は、十有二月学園、田村高校、赤坂高校です。


決定しましたら活動報告などで連絡しますので、


もしアドバイスや要望などいただけるようでしたら感想やメッセージでもかまいませんのでよろしくお願いします。


早ければ八月の第二週あたりから再開できればと思います。

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