05:スモールバスケット
庭先での1on1は屋内から照らされる明かりのみで少し薄暗く、相手の顔と手元のボールは良く見えたが、ゴールは少し見えづらかった。
琴音の母親である鈴音がゴールをいじって勝負の準備をしていた。
「ゴールの高さは中学生用にしたからね♪」
待っている間、上園はボールを突いてウォーミングアップを済ませていた。
「それじゃあ、やりましょうか」
「はい、お願いします」
上園は気を引き締めて勝負に挑む。
上園のマイボールから始まり、まずは時間をかけて相手との距離や足場の様子をだいたい把握する。
すると鈴音がわざとらしく右側を空けてくるので、天邪鬼な上園は左を抜きにいった。
しかし一線を退いたとしても元プロ――しかも体格の違う大人を抜ききれるほど、今の上園にはスピードもドライブの切れもない。
そのためリーチの違いだけで鈴音が対応してきた。
それを見て一歩下がりながら外からのシュートの気配を出してみるが、鈴音が乗ってこないので再び加速して、体をぶつけて力だけで抜きに行く。
「セイラちゃんは意外と強引ね」
それに対し、鈴音は上園の動きをある程度察知しつつ、小ジャンプからくるレイアップを警戒した。
これだけの身長差がある。
それならばタイミングを必ずズラすようなプレーがあるはずだ。
「セイラちゃんは真っ直ぐすぎるよ」
ノーフェイクで上園が跳躍した。
跳躍が最高点に達する前に、リーチの差を使ってボールを叩き落そうと鈴音は手を伸ばすが、そこで上園は滞空時間目いっぱいのシュートを放つ。
通常なら放物線を描くように最高点から落ちていくが、上園はその高さをほとんど変えずに最高点に行く前に体をスライドさせて予想外のフェイントを仕掛けてきた。
その間たった一秒。
相手の手の出せないところで上園がゴールへ向かって放ったボールは。吸い込まれるようにゴールリングの中へ入っていった。
「……嘘?」
しかし上園のオフェンスはそれ一回きりがうまくいって、その後はほとんど通用しなかった。
その理由は単純に今の彼女に合ったスタイルのバスケットを上園青空がしていないことだった。
一撃目こそ規格外のバスケットをしたから通用したものの、それは小さな体への負担も大きく、連発して出せるものでもない。
持っている素質は娘の琴音と同等かそれ以上だったとしても、使い方を知らなければその力は宝の持ち腐れになる。
それを知ってほしいと鈴音は思いこんなミニゲームをしたのだ。