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10分間のエース  作者: 橘西名
高校生編(竹春高校)
59/305

39:不用意

 竹春高校の陣形は、由那と栄子が前に残り、あと全員が守ることに集中することにした。


 まだ熱の抜けきっていない由那は点を取ることに集中してもらい、その負担を軽減するために栄子を前に残していた。


 由那がコートに入ると全員から声をかけられる。



「へへん。この愛数様がコートを守りきったのだ」


「まだまだ飛べるから、今度はあのダンクも止めるよ」


「スピードだけなら負けない」


「ボール取ったらすぐに回すから。信じて前で待ってて」



 由那は唇が震えていた。声を出したらさっきまで泣きそうだったことがバレそうで、プレーでそれに応えようと前を向いて歩く。


 すると俯き加減で歩いていたせいで相手チームの選手とぶつかってしまった。



「あ、すみません」


「ねえ、あなたって前、私とやったことない?」



 そこには長岡がいた。


 由那はすぐに答えた。



「いいえ。私は始めてですよ」


「そうか、わかった」



 千駄ヶ谷中の元一年生エースと夷守中の元二年生エース。


 あの大会から数年あって、今と昔じゃ違う二人。


 片や弱小校のエースと、片や日本代表のエースと呼ばれるところまで上り詰めた。


 どっちが良くてどっちが悪いというわけではないが、それぞれの経験してきたことは全く違う。


 長岡からすれば、あのとき敵わなかった相手にリベンジできる材料は既に揃っている。


 残り時間は三分間しかないが、残り時間の全てを使って勝ちきることに両チームのエースは全力を尽くすことに決めた。


 その両雄を亜佐美は良く見て今後の対策に役立てようと微かに思っていた。


 いまでこそ竹春高校の一員だが、本当は全国大会に駒を進めるような強豪校のマネージャーなのだ。


 全国では一回も勝てずに負けた苦い思い出もある。


 それにこんな風に考えられるのも、コートに出た由那からビシビシ伝わってくる感覚に安心感があったからだ。


 それはこの高校へ由那が進学してきて、彼女がバスケをやめたと聞いたときのことだ。


 どうしてもそれだけはさせちゃいけないと思った幼馴染ズは、バスケ勝負で勝ったら高校でもバスケをやるように無理やり説得して勝負をした。


 その勝負は由那一人に対して、秀人、夏樹、大神の大型男子三人で、先に五本先取した方が勝ちと言うもので――結果は幼馴染ズの惨敗だった。


 やさぐれ由那が無意識にも手加減をしないバスケはそれくらい飛びぬけていた。


 今はそのときと同じような感じがする。


 状況こそ全く違うが、この状態になった由那は手がつけられないのを良く知っている。



 最初の得点は長岡がほとんど一人で決めた。


 決めると同時に自陣へすぐに戻った長岡と前線でパスを受けた由那の第一戦が開始された。


 この場面はエース同士の対決と誰もが思ったその瞬間、一瞬の迷いもなく由那は長岡に背を向けたまま突撃し、栄子にパスを流した。


 それは、昔、遊びの中で覚えたコンビネーションの一つで、長岡の裏に回りこんだ由那に栄子がパスを戻すと取られた点を取り返した。


 次に、再び長岡が決めたところで、竹春高校が最後の手札を切った。



「あの子のブラフは全部が全部嘘じゃなくて、半分くらいの真実が混ざっているからやらせたのよ」



 不適に笑う亜佐美の合図で竹春高校の最終陣形になる。


 それはポイントガード愛数という、パススピードが異様に遅いことによる大博打だった。



「あの子は全部の事は覚えていられないけど、見た映像をしばらくはそのまま覚えられる。それが前半で長岡を止めることが出来た理由の一つ。――そしてもう一つ。長岡萌という選手と由那が前に対戦した映像に愛数ピッタリのパスがあったからね」



 愛数、長岡、由那と縦のラインに三人が並んだところで、愛数が不用意なパスを長岡の正面に出す。


 由那のやっていることに気付いている長岡に、絶対的アドバンテージがないならこのパスはただ相手にボールを渡すだけになってしまう。


 しかしそのパスに長岡が何も考えずに飛びつく事はできなかった。



「先輩!」



 中学のときは、このパスに反応した瞬間に長岡は由那に抜かれていた。


 深く考えすぎなのかもしれないが、理性を超越して考えすぎてしまう。


 松岡の声に我に返った長岡はボールをとりに行くが、この出遅れで由那の方が前に出てボールを捕球する時間が出来る。再び栄子に渡して、今度はそのまま栄子が点を決めた。


 ここで動揺を消し去りたい長岡は仲間に攻撃の組み立てを任せてゆっくり前に上がった。


 赤坂高校のパターンから外れたこの行動が、三咲のここ一番が引き出し、シュートを直接叩き落とすターンオーバーを成功させ愛数がキープする。


 そして由那のいる方を見つめた。


 由那に二人のマークがついている。


 愛数は躊躇なくスローパスを送ると、そのパスの真価がここで発揮される。



「そんな不用意に近付いたら――」



 長岡がいうより先に反応してしまった一人がボールへ近付くとそこへ一陣の風が吹いた。


 確実に後ろの方にいたはずなのに、由那はそのボールを奪って鋭いスピンムーブから二人のマークを置き去りにしてゴール前にいっていた。


 ここから竹春高校の怒涛の攻撃が始まる。


 滴を中心にボールを奪い、ボールを愛数に預ける。



「愛数ちゃん、パスちょうだい」



 愛数に近付いてボールをもらった由那は信じられないプレーをする。


 それは数分前まで亜佐美していた長距離シュートを真似たようなスリーポイントシュート。


 しかもゴールリングに掠る事もなく真ん中を射抜いていた。



「これで三点差です」


あと一、二話で完結です!

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