34:珍妙コンビ
第二クォータが始まる直前。
「亜佐美さん。一度ポイントガードを由那にしてくれませんか? 向こうの前髪がはねてる子に試してみたいことがあるんです」
「あぁ、あの子は松岡っていうらしいわ」
変化をもたらすという意味ではありだと思う。
しかしそれ以上に大きな問題もある。
「でもそれだと守備の面でほぼノーガードになるわ」
なぜなら第一クォータでは由那が前でプレッシャーをかけスティールする形がうまくいってリードを守れていたからだ。
そこに思わぬコンビから声が掛かる。
「それなら私と愛数で考えたディフェンスがあるよ」
由那と愛数、コンビプレー自体練習していないはずなのに大丈夫かと思ったが、任せてみることにした。どうせ交代できるメンバーもこのチームにはいないのだがら、少なからず変化を与えなければ相手に流れを持っていかれてしまいかねない。
「じゃあそれを試してみようか」
迎える第二クォータ、両チームともメンバーチェンジなし。
さっそく由那、愛数コンビのディフェンスが披露できる場面になった。
相手の攻撃で、センター同士は熾烈なポジション争いをしており、愛数が向こうのポイントゲッターを抑えようとする。
出しどころがなくなったパスを、第一クォータ終了間際のように由那がカットした。
「走って、栄子!」
この試合何度目かのカウンターが決まり、スコアは18対12になる。
愛数がパスコースを限定し、由那がカット。
気持ちを切り替えた愛数は、前後の動きにも対応して一人をほぼ完璧に抑える。そしてフェイントを使って由那がパスを弾き返すことができて初めて成立するカウンターディフェンスが、赤点コンビが休憩時間に考えてそれぞれの長所を生かせる作戦だった。
由那自身気付いていなかったが、このディフェンス自体は中学で一個上だった先輩が得意にしていたものだった。
これが予想以上にはまった。
由那のようにフィニッシャーとして敵陣にいるわけじゃない本職のスモールフォワードは文字通り敵陣を切り裂いてくれた。中学レベルと自分では思い込んでいる滴だが、高校でも十分に通用する。それは県下一の学校との合同練習でなんとなく分かっていた。
勢いに任せてボールを死守するセンターと両サイドを速さと技術の別々のもので蹂躙していく竹春高校をみて、赤坂高校もようやくメンバーチェンジの準備を始めた。
レギュラー相手にこのチームがどこまで通用するのか、亜佐美は少し楽しみだった。
しかし現実は、そう甘いものじゃなかった。