33:なめるな!
着々と開きつつあるリードに相手がタイムアウトを取ると、そのタイムアウト明けにポイントガードの子――松岡が滴に話しかけてくる。
「センターのデカイ人とあんたとか意外とやるみたいね。でも、そろそろそっちにはつまらない試合になるよ。いいや、するね」
松岡が言っていた通り、試合はその子を中心に変化を見せ始めた。
竹春高校の中では数少ない経験者の滴のマークを意に介さず、ずんずんと敵陣に踏み込む。
そしてこちらがうまくマークの受け渡しができないことに気付いており、本来のポジショニングからはありえない陣形で赤坂高校の全員が動き出し、それに合わせてパスが出される。
「デカイ人はゴール前から引き離せば何にもできないよ! 小さいのは形だけ!」
この二人――三咲と愛数がゴールへ繋がるルートに動かされる。
そして出されたパスは、ゴールまで一直線、簡単に決められてしまう。
由那の指示で、竹春高校は一度ゾーンディフェンスに切り替えた。
それでも悪い流れは切れず、三咲と愛数、栄子が今までマークしていた相手の動きが気になってしまい動きがバラけてしまう。
守備が不安定になり、本来できていたはずの攻めも止められてしまう。
「一本きっちり――っていっても……」
滴からみて攻撃の主軸である三人へのパスコースが塞がれていた。
これも短いタイムアウトの中で対策を練ってきたようで、さらにここへきて由那以外が決まって同じ場所にいることが多くなった。
ゴール下に張り付いてしまうセンター。
左側からしか攻められないパワーフォワード、しかもレイアップ以外できない。
そのパスコースを封じる事は容易にできる。
そのときの対応も考えていた。
臨時マネージャーの亜佐美からは、ポイントガードをやる上で、もしパスコースが無ければ、何人ついていてもいいから由那にパスを出すように指示を出されている。
意図は推し量れないが、それを信じて滴はパスを出す。
「由那、お願い!」
滴からのパスは由那のマークをしている子の正面に出された。
誰もがそのパスは通らない、無謀なものだと思うだろう。
だがこちらのエースはものが違う。
「ナイスパス!」
由那は逆の動きを入れて、マークをしている子より一歩先に出る、という単純な動作をする。しかしそれはある程度力のある強豪校の選手なら自然とやっていることだ。
そのフェイントがドリブルやパス、シュートで何度も使われるから、どの試合も緊張した展開が続けられ見ているほうも楽しいのだ。
その技術を突き詰めていけば、相手よりも二歩前に出ることができるというが、それに加えて相手よりさらに一歩前に出ることができる瞬発力がある由那は、合計で相手より三歩前へ出て、味方のパスを受け取ることができる。
この瞬発力だけなら、由那は栄子よりも早い。
「愛数ちゃん」
「まかせて」
すぐさま由那は愛数にパスを出し、たったいま抜き去った相手をかわしてゴール下に出ると愛数から戻されたパスを受け取る。
「好きにはさせないって!」
由那の進路上に松岡が戻ってきていた。
すでにシュート体制に入っている由那はそのブロックに阻まれそうになる。
「美咲さん!」
由那の声に松岡が反応した隙に、由那はシュートをゴールに沈める。
この一連の動作を見て彼女の中で由那の評価が上がった。
「へぇ、あんたも結構やるんだ」
「さっきからよく話しかけてくるけど、そういうこといって、なめてかからない方がいいよ。みんなはまだまだこれからだから」
赤坂高校のボールになるが、あっさりと由那がパスカットをして栄子の手元にパスを送る。
がむしゃらなドリブルで駆け上がる栄子に相手のマークはすぐに追いついてくる。
それをみこして栄子は遠目からのシュートを放った。
フォームも軌道も目茶苦茶で絶対に入らないだろう。
しかしそれはいい意味でセンター対決の好ボールになった。
松岡はセンターに「負けんな!」と叫ぶが、その声を掻き消すほどの気迫を見せる三咲が飛び上がっていた。
「うおおおおぉぉ、りゃああああ」
「ひいっ――」
相手のセンターをビビらせる大声とともに飛翔した美咲は、遅れて飛んだ相手より先にボールを鷲掴みにしていた。
松岡の声も空を切る形になり、センター対決は三咲に軍配が上がる。
「よっしっ、それじゃあ栄子にパス」
美咲が競り勝つことを信じて、マークを振り切りゴール下に飛び込んできた栄子にパスを出し、得意のレイアップが決まった。
そこで第一クォーターが終了。
こちらの攻めのリズムを崩されかけたが、最後の最後で建て直した。
スコアは終盤でもたついたがこの試合を見に来ている校長を含め全員の予想を上回って、16対12となった。
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