32:良い材料
赤坂高校のセンターは二メートル以上あり将来有望な一年生で、先ほど滴に食って掛かったポイントガードの子と同じ中学出身でもあった。
三咲はずっと練習してきた西條や自分よりも背の高い相手にどれだけできるのか、それは未知数だ。
攻撃面で余裕がある赤坂高校は、そのセンターを後ろに配置して竹春の攻撃パターンの一つでもあるハイポストのボールとリバウンドを奪うことに専念していた。
それに対して三咲は攻守の切り替え時は全力で走ってゴール下までいっているため思ったとおりのポジション取りが出来ないでいた。
しかし西條との練習で最終的には何かを掴めた三咲にそれは些細なことだ。
「うらあぁあああああ!」
大きな声でボールに飛びつく三咲に相手の一年生はビックリして制空権を三咲が取るシーンが何度もあった。
ポジション取りは五分でも、玉際の追い込みで三咲の何かが相手を上回っていた。
「……声が大きいだけの人に、何度も止められてたまるか」
ぼそぼそいう相手のセンターに三咲は凛とした声で宣言する。
「私はもっと上手い奴を知ってる!」
相手が三咲の目を見てくるがかまわず続ける。
「私はそれ以上に強くて早い!」
そんなことを平然といってくる三咲は天然のようで核心を突いた事をいっている。
なぜなら柔道で鍛えた足腰がある三咲は重心の置き方が上手く、自分が今いるポジションを死守するだけなら誰よりも上を行く。
さらにその位置が相手の嫌がる場所であればあるほど効果は大きくなる。
練習では西條の利き腕のあるほうに張り付いて、ボールに届かなくてもそのあとシュートをブロックすることやスティールができた。
この試合では守備に着くのが早くポジションを決めてポツンとたっている相手の目の前に密着してポジションを奪っていた。
それに加えてあの大声だ。
相手からすれば、身長が近い相手がいつもすぐ近くにいるし、競り合い時には声を上げて応戦してくるため技術的な問題ではなく精神面で三咲が一年生の子を圧倒した。
それは確実に竹春高校にとって良い材料になっている。