04:この町のバスケ
昼間の暑さが嘘だったような肌寒さを感じる夜に、タンクトップにショートパンツと非常にラフな格好で琴音母の鈴音が縁側に出ていた。
その隣には小学校低学年の頃の琴音のパジャマを来た上園がいた。
「うん、サイズがピッタリでよかったね」
鈴音は優しく少女に言う。
「はい、ありがとうございます」
物静かな少女は、端正な顔立ちをしていて年相応の無邪気さの代わりに大人っぽさをもっているような不思議な少女だった。
この少女はバスケを良く知っている。
そして鈴音もバスケは出来るほうだ。
「ねぇ、セイラちゃん?」
「……え、あ、はい」
「セイラちゃんって呼ばれるのは苦手? あなたにとても似合ったかわいらしい名前だと思うけど」
「好きです、自分の名前。私の目指すバスケット選手と同じ名前が入っているんです」
「セイラちゃんには悪いかもしれないけど、しばらくはウチで泊まっていってね。琴音がね。今度の試合は絶対に負けられないって言うから、セイラちゃんにはしっかり頑張ってもらわないといけないの」
上園は理由を聞いてみた。
しかしその理由は琴音に聞いてと軽く断られてしまう。
「例えそれが負け試合になったとしても、あの子達の最初で最後のバスケは五人揃ってできたらいいな、と私は思うの。ずっと一人か、二人か、四人だったからね」
大人の時間を楽しむ鈴音は上園の横で晩酌をしていた。
次第にふわふわした気分になって頬も赤く火照ってきた。
「ところでさ。セイラちゃんは今日の練習で見た限りだと、ウチの琴音と同じかそれ以上のバスケットのセンスがあると思う。だからさ、私とバスケをしよう?」
鈴音は、酒の入ったコップを縁側に勢いよく置き少し零してしまう。
足取りも多少ふらついた状態のまま、どこからかバスケットボールを出してきて薄暗い先にあるゴールを鈴音は指で差す。
「私はさ、元プロだから。本気で来る理由にはなると思うよ」
気のない様子だった上園もピクリと反応して無言で立ち上がった。
「ボールが取られたら攻守交替。身長差があるから、私はジャンプをしない。他にもハンデが欲しいなら――えーと、いらない? じゃあこのルールで軽くやろうか」
「よろしくお願いします」
上園ボールから夜の1on1が始まった。