25:最優秀選手
GWが始まる前に渡米した十八歳以下の日本代表メンバーは昨年のインターハイの成績を重視したメンバーで構成されていた。
全国優勝校で日本代表のエースとして期待された高円寺高校のダブルエースは、受験生と言うことで代表を辞退し、主力は赤坂高校の長岡と田村高校の三浦姉妹。
予選リーグは二位通過し、決勝トーナメントではほぼ毎年優勝をしているアメリカと一回戦であたることになった。
その試合が日本の女子バスケットボールの歴史に名を残す名試合となった。
出場時間は短かったが三浦姉妹は、アメリカ代表の守備を突破した得点を幾度と決め、センターの長岡は日本人としては高身長の百八十九センチの身長と精錬された技術で、世界の二メートル近い選手との競り合いに負けなかった。
オフェンス面でもディフェンス面でも活躍する長岡は日本代表の確実な得点源として点差が広がるのを防いでいた。
しかし点の取り合いで勝ち越せなかった日本代表は試合には負けてしまった。
ここでこの話は終わりではなく、大会の終了後にその大会に出場した選手の中から各ポジションでの最優秀選手の発表があった。
パワーフォワードやスモールフォワード、シューティングガードはアメリカ代表が総なめしたが、センターのポジションで日本から長岡が選出された。
それは近年ようやく決勝トーナメントに出れるようになった日本代表にとって歴史的なことであった。
竹春高校女子バスケットボール部の五人はそれぞれの思いがあってこの部へ入部している。
中学でバスケが出来なかった田崎由那と、バスケは出来たが大会では結果の残せなかった滝浪滴。
この二人は対照的なので分かりやすいが、残りの三人はなかなかの問題児である。
まず一番分かりやすいのが由那の幼馴染で陸上部とバスケ部を兼用している大塚栄子。
彼女はもともとこの部に入部するつもりはなかったが、滴と一緒に由那の心の内を聞いてしまい、少しだけ手伝えればと思ってここにいる。そのためプレイスタイルは昔遊びで他の幼馴染たちとバスケをしていた頃のままだが、未経験者よりは幾分かマシだ。
次に大塚秀人の勘違いでこの部に入ることになってしまった上下愛数は、運動全般があまりよろしくない。体力・やる気・勇気の全てが平均以下なのが非常に残念なくらいだ。
ここまでなんとか着いて来ているという感じで、バスケを楽しんでいるかも定かでない。
外見が小学生にしか見えない少女の秘密は、試験でいい点を取ってお姉ちゃんに会うことというなかなか可愛らしい一面も持っている。
そのことへの協力を由那たちは惜しまなかった。少し練習時間を削り勉強の時間を作り、休憩時間にも勉強をしておそらくGW明けのテストは一人でやるよりもいい点が取れると思う。
最後にメンバーの中で破天荒な経歴を持つ柔道部からスカウトしてきた山田美咲は、由那とのバスケ勝負で負けてこの部に入部した。
いつか由那にリベンジすることを考えてこの部の誰よりも練習をしている。
他校との合同練習では、三咲に合ったポジションが上手な後輩に教えてもらいながらその成長速度は著しいものがある。
そのバスケ部は、由那を除いた四人がある共通認識をしていた。
それはこの部の中心人物である少女に対して思っていることがみんな一緒だったからだ。
この部へ加わった時期はバラバラだが、みんながそれを知っている。
このバスケ部のエースが誰なのかということを。
そのエースがこんなところでくすぶっていてはいけないと言うことを。
自分たちがその足を引っ張るだけだということを。
もしかしたら自分達のせいで今度の試合には負けてしまうかもしれないということを。
でもきっとそれはエースがどうにかしてくれると言うことを。
だからこそ、全員が試合の相手が全国を代表する高校であっても
『必ず勝つ』
と力強く言えたのだ。
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