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10分間のエース  作者: 橘西名
高校生編(竹春高校)
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20:意識の不協和音

 ゴールデンウィークを前に竹春高校もお休みムードになっていた。


 教師からしても、授業が中途半端に終わると次が一週間以上先になってしまうからきりのいいところまでやって、最後の一時間はグランドに出てサッカーをするクラスもあれば、学校から歩いてすぐのところにある公園で鬼ごっこをするクラスもあった。


 しかし怒涛の八連休には余計なものまでおまけについてくる。



 具体的に言うと、連休明けに定期試験がある。



 高校へ進学して始めの試験となるのがその定期試験で、その試験に対する特別な思いを持つ生徒もいることであろう。



 女子バスケットボール部では、上下愛数がそれに秘めたる思いを持っていた。





 いまだに体育館の四分の一で男子のおまけ扱いの女バスは、練習の合間に雑談がよく挟まれる。


 話題は女子らしくファッションや色恋などの話をすることも、たまにあるがほとんどは別の話題で盛り上がっている。


 この五人が揃うとバスケなどのスポーツ談議に始まり、強いてはご当地ヒーローの話に飛んで行ったと思えば、たまに甘く切ない恋話が入ることがある。


 そして手元が暇になるとボールをくるくる回して遊んでいるのがほとんどだ。


 そんなバスケ部だが、GW前の浮かれた雰囲気の中で、それに一番似合わない人がそれをしているのだからみんなが不思議がっていた。


 部活の休憩時間に勉強をするような優等生がこの中にいるとは、常識人のシズクからしても驚くことだ。


 何がどうなっているのかその当人に聞いてみると、思っているより子供っぽい返答があった。



「怒られた。この間の小テストで悪かったからものすっごく」


「え、それだけ? あんな誰でも出来るテストがダメだっただけで勉強するの?」



 不服そうに愛数がシズクを睨むが、すぐに視線を数学の教科書に落として何かを書いている。



 シズクも多少失言があったかもしれないが、そんなことよりたったそれだけのことで、いかにも勉強が嫌いそうな上下愛数が勉強をするとは思っていなかった。


 まだ数日しか一緒になって話したりバスケをしたりしていないが、この子が色々なことをやれば出来る子と言うのは薄々感じていた。そうでなければ鬼のような迫力を持つ山田先輩と、その先輩をタイマンで打ち倒した同級生がいるバスケ部の三人目としてここにいるのはどう考えても不自然である。


 バスケが上手い由那とは違って、バスケだけでなくスポーツ全般が得意分野に入る元気ハツラツの元柔道部員はたった二週間弱の練習しかしていないというのに初心者とは思えない上達をしている。その原因が休日に他の高校のバスケ部と合同練習をしているせいだということをシズクはまだ知らないわけだが。



 そんな場所にポンッとこれまたバスケ初心者で身体のサイズ的にも大きなハンデを背負っている子が入ったのだから、すぐにやめてしまうと思うのが普通だろう。


 しかしそんな少女がまだこうしてバスケ部に残っているのだから、由那の人柄の良さということだけじゃなく、他にも理由があるはずだ。


 それがその少女の適応力の高さだと知ったのは偶然だった。



「ねえねえ、由那は愛数にどんなプレイスタイルを教えたの?」



 昨日、そう質問したときのシズクは、練習とはいえ愛数に意表を疲れたドライブで抜かれた直後のことだった。


 それに対し明確な答えがある訳ではないが、愛数歴が長い由那が答える。



「別にまだ基礎の段階だから決めていなかったけど。たぶん私の真似か他の人の真似をしてるんじゃないかな? 愛数ちゃんは背も低いし足腰もそんな強くないから遠くからのシュートも出来ないけど、一回教えた事はだいたいすぐに出来るようになるよ」



 また愛数は体力もないのだが……一回教えただけですぐ出来るだけの運動神経と頭があるというのも本当のことだ。



「愛数ちゃん。分からないことがあったら手伝うよ」



 由那が後ろから声援を送るが、愛数はいつもの調子で答える。



「あ、ありがと。でも確か、愛数の0点に次ぐ一点を取った人がいたような」



 それを聞いた後の由那の周りには黒い雲がかかったようにどんよりとした空気が見えた気がした。



「それに授業中に眠り続けるから“眠り姫”と呼ばれている人もいたような」



 愛数が口を開くごとに由那の周りがどんどんドス黒くなっていく。


 そういえば最初の週から毎日居眠りをし続けたせいである女子生徒が教師からマークをされている。そのことを三人は同じクラスなので知っている。



「大丈夫。前の日にしっかり寝ればテスト中に寝ないよ!」



 由那がテスト中に居眠りしてました発言をするが、愛数は黙々と勉強を続けている。



「ところで愛数ちゃんは誰に怒られたの? 確かご両親とは別々に暮らしているっていっていたから、お兄さんに?」



 愛数はコクンと頷く。


 それを聞いた三人は愛数の兄がどんな人なのか想像したが、愛数とは正反対に背が高くすらっとした勤勉そうなお兄さん像が浮かんで思わず三人は噴出しそうになる。



 そんな三人を横目に愛数は語りだす。



「愛数の家はちょっと特殊で、親が警視総監、兄が世界一の名探偵なんだけど」



 それだけで複雑な家庭環境に思えるが、愛数自身に問題があるという話になる。



「まあ、いろいろな話は置いておいて、愛数がこの学校に入ってやらなきゃいけないのは勉強なの。これで一番になればその人たちが認めてくれてお姉ちゃんに会わせてくれるから。だからがんばる」



 それだけ話すと愛数は教科書を畳んで立ち上がった。



「ほら、もう練習でしょ」



 そこで由那が待ったをかけた。



「愛数ちゃんは、練習をしなくてもいいよ。テストに向けて勉強してそれで、時間が空いたら練習に参加してくれれば」



 それが冗談でなく、由那の本音だとは誰も思わなかった。


 由那は本気でそうすればいいと思っている。


次の更新は土日で、本編かEXかは未定です。

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