18:この五人ならきっと
目元を赤くした由那を見て、三咲が臨戦態勢になりかけていた竹春高校女子バスケットボール部にはいつも以上に活気があった。
そこには陸上部(仮入部)を途中で辞めたシズクの姿がある。
シズクからすればバスケ部初日ということもあり、簡単な自己紹介と出身中学、得意なポジションを話すと、それに答える形で由那、三咲、愛数も同じく話してくれるが、いまいるメンバーは経験者が一人に初心者が二人というのがわかった。
「これからよろしくね、シズク。私の事も由那でいいよ」
中学のときはチームメイトから『シズク』と呼んでもらっていたので、それを伝えるとこの部活でキャプテンポジションの由那がシズクの手を取って入部を喜んでくれて気恥ずかしい。
それを察してか、三咲は表情を崩してそれを見ている。
「こちらこそよろしく。経験者組として私も何かあればフォローできると思うから、何でも言ってね」
中学時代に名前だけのエースとして桐生中を先導してきたシズクは、由那の手助けができるんじゃないかと思っていた。中学ではコーチの真似事のようなこともしていて、練習メニューを考えたり、チームメイトの良い相談相手をしていたりしたので自身があったのだ。
それに知ろうとして知ったわけじゃないが、目の前にいる自分より数段可愛らしい少女の内なる思いを知ってしまったからには協力せざるを得なかった。
「えーと。なんといえばいいんだろ。上手い言葉が思いつかないのだけど……」
まずシズクにはバスケ云々の前に気になることがあった。
それは柔道着を着て戦闘準備万端の山田美咲のことではない。
いや、自己紹介をする前に、シズクが三咲に「田崎さんなら大丈夫」と伝えていなければ、彼女を泣かせた張本人である大塚秀人と愉快な仲間達が血祭りに上げられていたことであろう。
「あぁ、私の事?」
そこには部外者が一人いた。
その人物をシズクはよく知っている。
「バスケのルールは昔に覚えたけど、それからほとんどやっていなかったからレイアップしかちゃんとできないよ?」
そういうことを聞きたいんじゃない。
シズクは叫びたい気持ちを必死に抑えた。
なぜなら、シズクの視線の先には近々大会を控える陸上の栄子の姿があったからだ。
「なんであなたがいるのよ! 陸上部はどうしたの、いや、まさか私と一緒で辞めたとは思えないけど……というか、やっぱりあのときのことは自分のことだったのね!」
「部活が掛け持ち出来るって最近知ってね。週に三回くらいしかこれないけど。それでもいいよね」
「うん、大丈夫だよ。栄子ちゃんは陸上も頑張らなきゃ」
「答えなさいよ!」
少々騒がしいが、三人しかいなかったはずの女子バスケットボール部は、この日だけで四人目、五人目を加えて晴れて五人揃った。
五人揃ったこととちょうどいいタイミングだと思い、由那はこのバスケ部が学校に認められるための条件を伝えた。
聞いた直後はぽっかり穴が開いてしまったようにその場が停止してしまったが、すぐにそれぞれが内に秘めた野望を声に出した。
三咲は力強く勇ましい意志を。
「面白いじゃん。やるなら絶対に負けないけど」
愛数は場を和ませる普通なことを。
「決まっちゃった事ならしょうがないよね~」
そのことを既に聞いていた栄子は自分に語りかけるように言う。
「まあ、頑張っていこう」
シズクは目標を立てるように。
「それまでに試合が出来るだけの下地をつくらなきゃね」
最後に由那は、締めとして自分の意志を宣言する。
落ち着いた性格なのでハッキリと言い切るのは苦手だが、周りに負けない気持ちを伝える。
「この五人ならきっと――ううん、絶対に勝てると思う」
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