17:例のやつ
四月初めのことになるが、バスケ部を再始動する際に、由那と部活の顧問は校長室に呼び出されていた。
その場へ行く事はできなかったが、秀人も出口で待っていた。
校長室の中では、今年からこの学校へきてバスケ部顧問になった新米女性教諭がこの事態に戸惑いを隠せず声を震わせていた。
「あ、あああああの。どうして私たちは呼ばれたんでしょうかかかか」
校長が両手を組んでシャーロックホームズが考えるときのような仕草をする。
何を考えているのか分からないが、新米教師にはとても怖いものに見えた。
社会人が上司にそんなことを思ってはいけないのだが、怖い雰囲気を出す校長が悪い。彼女はそう思い込み納得することにした。
校長がその重い口を開く。
「バスケ部は、去年の不祥事から約半年間休部状態です。それを再び始めるには信頼を回復しなければならない」
「それはどうすればいいんでしょうか……」
由那が顧問の不甲斐無さを見かねて毅然と振舞う。
「なに、難しい事は言いません。一生懸命部活へ取り組む姿勢が見られれば良い。こちらで相手を用意するのでその学校を倒してください」
「それは、どこの高校なんでしょうか……」
「少なくとも県ベスト8に進出した学校がいいんですが、まあベスト4以上の学校を相手にすると考えてください」
「その、勝たなくても部は認められるんでしょうか?」
由那は重要なことを聞く。校長先生が言うことをプラスに受け止めるなら誠意を見せれば学校は部を認めてくれる。そうとれる発言だったが、由那にはどうしてか素直に信じることが出来なかった。だからはっきりとさせておく。
「いいえ、勝つ事は最低条件で。そのあと審議の結果、部を認めるかどうかを判断します。他の部ならいいのですが、バスケ部はそれほど、この学校で信頼が失墜しているんです」
由那の予感はずばりと的中してしまったのだが、丁寧な受け答えを心がけすぐに返事をする。
「はい。それでお願いします。すぐに五人集めて必ず勝ちますから、そのときはよろしくお願いします」
それが竹春高校女子バスケ部が復活する唯一の手段になった。
本日お昼過ぎにももう一回投稿します。