13:ぼーるはんどりんぐ
十有二月学園との合同練習でボールの扱いの基礎を覚え初め、体育館の片隅で三人は由那の指導のもと徹底的にボールハンドリングを鍛えていた。
ボールハンドリングは、パス、キャッチ、シュート、ドリブルなどすべての場面で必要なスキルのため、ある程度できるようになったからといって次のことをどんどん教えるわけには行かない。バスケはハビットスポーツ、つまり習慣のスポーツと言われていて、覚えたスキルを習慣にしなければ、そのスキルはすぐに忘れてしまうということだ。
由那も学校の部活中には見せないが、毎日朝早く起きてする基礎練習を欠かす事はない。
彼女がハンドリングの練習で気をつけている事は、指先と手首を使ってボールをコントロールして、手の平にボールが触れないようにすること。ここで重要なのは、ボールが触れるのは指先だけということ。
由那がまず御手本を見せると、三咲は力一杯やってしまいボールの跳ね返りが強く取りこぼすことがあり、愛数は手の平でボールをぺちぺち叩いてしまう。それが二人の最初の課題となった。
そのため二人には由那お手製の特別なアイテムを渡す。
「なにこれ? チクチクして痛いリストバンド?」
それは由那が中学時代の監督に教えてもらったことを元に作ったものだ。その一つがこの『チクチク君一号』。
リストバンドを改造し、片側にマジックテープのチクチクする部分を貼り付けただけの単純な造りだが、それを手につけてドリブルをするとすぐに効果が分かる。
「嘘だと思ってこれを着けてみてくれる? 最初は違和感があると思うけど、すぐになれると思うから」
「チクチクするよ? こんなのをしてドリブルなんてしたらサックサクだよ?」
貰った物に文句を言う小娘にイラついた三咲は厳しい言葉を吐く。
「……いいから、ウダウダしていないでつけろよ」
「三咲先輩は愛数に厳しくないですか……まあ、つけるけど。これをつけて怪我とかしたら秀人にいいつけてやるけど」
「ははは……怪我はしないと思うよ、マジックテープだし」
数時間程度したら、手の平にテープの跡がつくくらいだろう。
渋々という様子でつける愛数を温かい目で見守る由那だが、三咲が怖い感じだったので内心では早くつけて欲しいと思っていた。
チクチク君一号をつけた愛数はドリブルをするとまた文句を言い始める。
「やっぱりチクチクする。ボールをつく度にチクチクチクチク」
「そう、痛いでしょう?」
笑顔でそう聞いてくる由那が、このときだけは愛数には怖かった。
「いや、愛数ちゃんが痛がるのを見て喜ぶために渡したんじゃないからね」
「…………ほんと?」
小さな背を丸めて愛数は聞き返す。
「じゃあ、さっきみたいな癖を直してドリブルをしてみて? 癖っていうのは手の平を使ってボールをついちゃうことだから。重要なのは、指先と手首でボールをコントロールすることだよ」
「わかった。やってみる」
由那に言われたとおりに愛数はドリブルをしてみる。
手にはめられたチクチク君一号は、その癖さえなくせば痛くはなかった。
それを実感する愛数はだんだんドリブルをするのが楽しくなってきたようだ。
あとはこれをつけたままやっていけば、比較的短期間でスキルは向上する。
このアイテムはなにもドリブルだけでなく、パスやボールキャッチなどの他のボールハンドリングでも使えるため、近くで遊んでいた三咲にも同じものを渡して由那自身も同じものをつけて練習を始めた。
出来るだけ短期間で効果的な練習をする。
それが初心者だらけの女子バスケ部が例の条件を達成するために必要不可欠なことだ。
次回の投稿は短めですので22日
その次の投稿が23日になります。