11:十有二月学園一週目
週末。駅前に集合した女子バスケ部三人と引率役の秀人を加えた四人は十有二月学園行きのバスへ乗り込んだ。
座席は由那と三咲、秀人と愛数で座る。
それぞれの座席では、由那は三咲に幼馴染のことを聞かれ、秀人は愛数の異次元の会話にひたすら相槌を打っていた。
「だから思うんです。自動車や電車がある現代で長い距離を自分の足を使って走ることはいらないって思うんです。そう思うからこそ逆に愛数はいつかあの二人をマラソンで抜きたいんです」
「はは、元々運動部の二人に勝つのは難しいと思うけど。まだ始めたばかりなんだから、無茶をして怪我をしないように頑張っていけばいいんじゃないかな。俺にもいつか越えたい人がいるから、その気持ちが分かるよ」
「話が分かりますね、秀人。愛数はそういう男の人は嫌いじゃないです!」
異次元の会話の一部を華麗にスルーして、相手に不快感を与えないように会話を続けている。彼のそのスキルは、ある幼馴染と話していて得たものだが、その男に感謝しておくべきだろうかと一瞬考えて、それはないなと思い直すとバスは十有二月学園前に到着した。
バスを降りると、バス停の横に懐かしい顔が待ってくれていた。
「久しぶり、由那」
「いえ、はじめましてだと思いますけど」
「あっ、亜佐美ちゃん久しぶり。とっても美人になっていてぱっと見は誰なのかわからなかった」
「チーッス。同い年らしいな。今日はよろしく」
「アサミン、これが竹春高校の女子バスケ部の全員だ」
「え、ええ。それじゃあ、いきましょ。迷う事はないと思うけど、一応ね」
竹春高校女子バスケ部を出迎えてくれた永田亜佐美が先導して、別館の体育館に到着する。
三年前に建てられたばかりの校舎は、バリアフリーを考えたスロープや入り口が自動ドアになっているなど県立の竹春と比べて私立の違いと言うのがよく分かる。
中へ入ると十有二月学園の女子バスケ部が出迎えてくれた。身体が大きい人や動きが素早い人などがいて、私立になると全国の凄い人を集められるんだなと感じた。
「ようこそ、十有二月学園へ。私は女子バスケットボール部マネージャーの永田亜佐美といいます。これから三週間の間、土曜日か日曜日のどちらかで一緒に練習をしていくことになると思いますが、こちらの練習メニューは全て私が作っているので、それに沿って練習をしてくれるなら、その都度質問は私にしてください」
亜佐美の作った練習メニューは個人もチームも鍛えてくれるものだけど、今の竹春はそれ以前のレベルだ。そのためそのメニューに混ぜてもらうのは来週からと決めていた由那と秀人は一言亜佐美に断ってからメンバーを連れて、入り口付近のゴールを一つ貸してもらう。
これからこのチームを引っ張っていかなければならない由那が、バスケを何も知らない二人に説明をする。
「教える事はたくさんあるけど、まずはボールハンドリングを練習してもらいたいと思います。たった一日で出来るようなことじゃないけど、私の動きを参考にドリブルの基礎を覚えてもらえれば今日のところは大成功です」
まず二人の前で秀人を相手にする形で由那がドリブルを見せた。
丁寧なプレイを心がける由那の動作は、プレイスピードを落とせば見る側からすれば分かりやすい。
動きの始まりと終わりに自分の感覚で言うところのコツを教える由那独自の指導法は、それなりの成果を見せていた。
元々荒さは目立つがボールハンドリングが出来ていた三咲は、よりバスケ選手らしい動きを出来るように。
いろいろと文句を言いながらだったが、体力面を除けば飲み込みの早い愛数も半日もすればボールから視線を切ってボールを安定して突くことができるように。
午後からは予定を変更して、十有二月学園の生徒と合流してアサミン特製メニューに参加させてもらうことになった。
全国大会へいけるようなチームのマネージャーである亜佐美の考えたメニューは、バスケットを狭く深く追求していくように、個々のレベルを確実に上げるように作られている。
まだ明確なポジションを決めるのは早すぎるが、三咲のポジションはセンターで問題ないだろうというのは誰もが考えていた。今日の練習は、それを試して、かつ次に繋がるきっかけを多く与える結果になっていた。
十有二月学園のセンターと良い関係になれた帰り道も興奮冷め切らない様子で三咲は由那と話していた。
そのときも由那は心の中であと二人はどんな人が入ってくれるのか考えていた。