10:バスケ部始動
バスケ部の練習場は体育館だけだが、現在休部状態の女子バスケ部はその場所を貸して貰えない。元々使えるはずだった曜日は男子が独占して、学校の外周をひたすら走る部活になっていた。
「私ってバスケ部に入ったんじゃなかったっけ。もしかして陸上部に入ったんだっけ」
「えっと、三咲先輩はバスケ部に入ったんですよ。まずは基礎練習から入ってるだけです」
「私、体力には自信があるほうだから、ボールを使いたいなぁ」
「いまいるみんながしっかり体力がつかないと、チームスポーツは上手くいかないんです。週末には他の高校の人と練習を組めたんで、そのときにボールを使いましょう」
「それって一人だけだよね」
「えっと、その、そうですね」
一周が約五百メートルのコースを由那と三咲は併走して走っている。
もうすぐ六週目を完走するが、この二人のペースについていけずまだ一週半しか走れていない少女がいた。彼女は身体が小さいハンデを背負っているが、それ以前に体力はほとんどない。由那たちに追い抜かれるたびに強気なことを言っているが、このペースだとノルマの十周完走は難しかった。
「別に愛数は運動が苦手なわけじゃなくて――走ったり飛んだりするだけなら普通に凄いんだけど――体力はどうしようもないというか――走りこみなんてしたこと、ないから! ちょっと遅れているだけだもん!」
懸命に走る姿だけでも十分可愛らしいが、実際に併走してみると泣きそうな顔をしながら憎まれ口を挟むものだから、一部の陸上部男子が練習そっちのけで応援しだしたというのは、このすぐあとの話になる。
「高校生になったから、一度やると決めた事はあきらめないもん!」
「はいはい、がんばれー。十周もあるからペースは考えなよー」
「三咲先輩……。上下さん、がんばろうね。あと八周半だから。初日は三周でリタイアだったけど、今日は半分くらいいけるはずだよ」
「わかってるってば!」
後輩に厳しい先輩と、同級生を心配するエース、気まぐれに転がり込んできた頑張り屋はそれなりに良い関係になりつつあった。
週末には電車で一本のところにある十有二月学園で合同練習をして、来週からは男子のやっている時間帯に隅の方でボールを突くくらいは許可してもらっている。
あまり時間はないが、彼女達は順調に道を歩めていると思う。