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10分間のエース  作者: 橘西名
インターバル(憧れの舞台編)
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56:二年前の中学生

 約二年前、末莉が中学一年生だった頃の秋。


 茉莉はせっかくの休みの日に母親から頼まれたお使いに外へ出ていた。


 気分の落ちていた頃だったため、自信の無さが全身に出ていて、猫背で俯きながら歩いていた。


 体の大きな男子がやるスポーツのイメージが強い子供相撲の“チャンピオン”だったことを周囲に知られ、悪気のない言葉を冷やかしと感じてしまったのが、ついこの間のことである。


 全力で取り組んでいたことを否定されたような感覚が彼女の中に深いモヤモヤを残した。


 それからは何となく、何事にも自信を持てず、熱中できない。


 心が冷えて身体がこわばるような感覚に襲われるようになった。


 つい溜息の出てしまう回数も増えた気がする。



「はぁ・・・・・・」



 溜息をすると頭の上から声をかけられる。



「おいデカイの、顔を上げて歩かないと危ないぞ?」



 顔を上げると末莉より背の高い女性がそこにいた。


 あなたがそれをいうの?



 その女性は、鼻先すぐに顔を寄せてきた。


 すると一拍もしない間に、すぐ傍を自転車がベルを鳴らしながら風を切り走り抜けていく。


 それを庇うようにその女性が末莉を抱きしめるような体勢になった。



「マナー悪いなぁ。あんな鳴らさなくてもいいよね」


「ぁ、はい(近い。恥ずかしい)」


「大丈夫、怪我していない? 疲れていない?」


「えっと」


「直ぐそこがウチの中学だから、そこで休憩しようか」



 新手のナンパかと思った。



 それくらい強引に肩を抱かれて近くの中学校に連行される。


 そこは中学生の夏の大会であるインターミドルが終わり、新チームを決めるための試合の準備をしている中学生たちがいた。


 元々一軍の選手だった二年生中心のチームと二軍以下を中心としたチームで戦い、勝った方が暫定で一軍になれる。


 そのスポーツのルールを末莉はほとんど知らなかったが、体育の授業で触れたことがあるくらいなのに試合の内容に彼女は引き込まれた。


 そこで繰り広げられた試合を見ていると次第に胸が熱くなり、身体が興奮しているのが分かった。それはスポーツ特有の面白さなのだと肌で感じた。




 ***

 末莉を自転車事故から救い、その試合に参加している彼女、中村八重が入ったのが後者のチームは二年生四人に一年生一人。


 この日が初めての試合だったが、前者のチームを圧倒した。


 それもそのはずだ。ほんの数か月後に千駄ヶ谷中学黄金世代と呼ばれる五人なのだから。


 末莉にはその人たちが違う世界の人のように輝いて見えただろう。


 この光景に興味を惹かれた彼女は、中村八重の誘いもあって中村の個人練習に付き合う形でバスケの練習をするようになった。


 エースと任命されて、忙しかった中村も末莉の求めには全力で応えてくれた。


 それは中村から見ても、自転車から庇ったときの末莉が生気を失った瞳をしていて心配だったから。


 その少女が試合を見るにつれてキラキラした瞳に変わったのを見た。


 無意識に立ち上がって見ず知らずの自分たちを応援してくれる熱烈なファンのようだった。


 この巡り合わせが彼女たちのスタートだった。

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