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10分間のエース  作者: 橘西名
インターバル(憧れの舞台編)
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55:ホウセンカ

 風変わりな基礎トレーニングをする二人だが、地道なアイドルも続けている。


 放課後のレッスンを事務所の管理するスタジオで行い、土日はいくつかのライブスタジオを回って経験を重ねている。


 それはちょうど茉莉とキアラが回っていたときのようだった。


 ライブは、ロック調の悠奈の曲「鳳仙花ほうせんか」をまだ末莉がフィットできていないので、茉莉の曲を二人で歌っている。


 悠奈曰く。



「末莉の曲は、お客さんもある程度踊れるコンセプトだから、一回聞けばプロなら誰でも踊れるわね」


「厳しいなぁ。でもキアラも普通に踊っていたから、踊り易いっていうのは確かかも」


「ーーそう、天才肌の私だから、ダンスだけでなく歌も完璧にマスター済みなのよ」


「すごいすごい」



 末莉は、気持ち半分で「すごい」コールを返す。


 悠奈はお調子よく、褒められればそれをすぐに受け入れる。



「末莉の曲はカップリングを合わせて2曲あるけど、今日はどっちでいくの?」


「悠奈ちゃんは、”ひまわり”と”アサガオ”のどっちがいいの?」


「今日は気分が良いから明るい曲調の”ひまわり”がいいな」


「OKだよ」



 このライブ会場のルールでは、4グループが順番に歌っていく形式だ。


 それぞれのグループが、スマホをブルートゥースで接続して伴奏を流せる簡便さから、学生の部活動グループも使うことが多い。


 そのため楽な気持ちで来る人も多く、年齢層も幅広く訪れる。


 アイドルの祭典前の人気票集めとしては最適ということだ。


 それに幅広い年齢層を相手にしたときの受けも見ることができる。


 末莉たちの前のグループがハードロックな曲を歌えば、思いがけず高齢者の人たちがノリノリでいるなんてもこと稀じゃない。


 末莉たちの順番がきた。



「「ユーフォルビアです。聞いてください”ひまわり”」」



 二人で元気にグループ名、曲名を言ってから、茉莉のスマホで曲を流し始める。


 末莉のオリジナル曲は、どこかで聞いたことがあるようなポップミュージック。


 しかし安っぽい感じはなく、純粋に歌や踊りが好きな末莉が歌うことで形になっている。


 ほんわかアイドルの彼女の横には、”知ってる人は知っているアイドル”の悠奈がいる。


 悠奈は幼い頃からの英才教育で、一度見たり聞いたりしたダンスや歌はすぐ習得できる。


 少し昔の企画であった籠球小町という女子高校生とバスケットボールをした際も初心者とは思えないプレーを見せた。


 ただある理由で一人前とは認められないのが彼女で、それを克服するためのレンタル移籍中でもある。



「「ありがとうございました!」」



 一曲を歌い終わると、次のグループが間隔を開けずに歌い出す。


 二週目が回ってくる間、控え室代わりの舞台袖で暫しの休憩。


 次の曲について二人で考える。


 これまでメインボーカル末莉、サポートが悠奈という形は崩していない。細かいサポートをするのが悠奈の方が上手だったことと、彼女が一日一曲ルールを敷いていたのが主な理由。


 悠奈がメインで二曲目をできないわけじゃないが、明らかにクオリティーが落ちるから歌えない。


 悠奈にとってのアイドル像は、常に圧倒的なパフォーマンスで観客を飲み込むようなアイドル。


 自分のパフォーマンスに絶対の自信があり、だからこそ逆に自分に自信がなければ歌えない。


 あとは体力が続かないとか、事務所の甘やかしで今の悠奈ができあがった。


 それが一人前になれない理由の一つ。


 そしてそれが許される環境はもう過去のことだ。


 さらに言い訳にしてきた体力もどうしてか急激にアップしている。


 例えると、運動部に入部したての一年生が、上級生との練習に付いてこれるようになったくらいの基礎体力を習得済みだ。


 隣にいる末莉とのアイドル像の違いも悠奈の心を動かし成長させている。


 末莉が観客を大事にする気持ちは、自分のステージを一番に見せるだけの悠奈とは違う。


 それは観客を圧倒するのではなく、楽しませるということ。



「二曲目は悠奈ちゃんの曲で行かない?」


「いいけど、茉莉は楽しめないんじゃない?」


「でもお客さんは楽しめるよ。ちょっした演出も思いついたし」



 最高のパフォーマンスをしなければならない一曲集中型の悠奈のアイドル像は、良い意味で変化をみせている。


 そうこうしているうちに順番になる。


 マイクを持った悠奈がステージの中央に立った。



「聞きなさい!」



 会場に響く悠奈の声は、そのままメロディーなしで歌を紡いだ。


 ライブスタジオでアカペラは物珍しく、悠奈を知らない人も一気に彼女の世界に引き込まれた。


 打ち合わせ通り、三十秒程度たったところで“実際には流れていた”曲の音量を茉莉がゼロから一気にあげると、ハイテンポな曲の盛り上がりに併せて会場が一気に盛り上がる。


 悠奈が苦手とする二曲目だが、歌がぶれないようにダンスは茉莉に任せていた。


 どちらかに専念すればそれなりの形になる。


 そこに本当の振り付けとは似ても似つかない茉莉の楽しそうなダンスが相まって、新生ユーフォルビアとしての形が顕現する。


 アーツと早見プロのそれぞれが一押しするアイドルが、トップに向かう出だしとしてはそれなりにいい形なんじゃないかと思う。


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