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10分間のエース  作者: 橘西名
インターバル(憧れの舞台編)
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54:先輩とアイドル


 悠奈の回答は明解だ。



「相手をひれ伏す圧倒的な力」


「すごいことを言うのね。最近の子ってそうなのかしら?」


「あんたもでしょ」



 上級生は気を取り直して真面目に大事な点を並べて言葉にする。



「こほん。一番は点を取って、失点を少なくすること。そのために私たちのチームが一番大事にしているのが、ボールを持っていない人のオフザボールの動き」



 例えばそれは、ボールを持っている人がパスを出しやすいように他の人が動くこと。


 例えばそれは、ドリブルをするコースがないときに、身を挺してそのコースをこじ開けてくれる壁のような動き。


 前者が高円寺のエース候補が目の前の試合でやっていて、後者が末莉のやっていることだ。



「東山さんは八重に良く鍛えられていて、センターとしての能力は十分。それに加えてコート全域で味方をフォローするスクリーンプレイが光っている」


「センターはポジションでしょ? スクリーンってどういうことですか?」


「バスケは基本的にはボール以外に触れるとファールになってしまうのね。でもボールがないところでも様々なプレーがある。その一つがスクリーンといって、ボールを持つ味方に相手を近づかせないように、相手の進路上で足を止めて壁を作ることをいうのよ」



 要するに味方の壁となり、味方を活かすプレーのことを言う。


 そのスキルが末莉はとても高い。



「ウチなら即戦力。八重達との連携も問題ないし」



 二人が雑談をしていると、二試合目を終えた末莉が戻ってくる。


 末莉は早見の隣に座る名嘉真なかまにお礼を言って、シャワー室に早見を連れて行く。



名嘉真なかまさん、ありがとうございました。お先に失礼します!」



 二人はさっぱりした状態で再度体育館に立ち寄り深々頭を下げてから、この日は帰路につく。


 名嘉真も笑顔で二人を見送る。


 今は足が不自由になっているが、二年前には、千駄ヶ谷中学で中村八重や野田佳澄、それに王華高校にいる今宮ひかるの先輩だった人。


 当時のエースであり、唯一今宮に一度もバスケで負けなかった実力者でもある。




 ***

 悠奈の帰り道。


 彼女がそのまま帰るはずもなく、タクシーで馴染みのスタジオに向かうと、浮き世離れした格好の二人組に遭遇する。


 純白に淡い桃色のフリルをあしらったロリータファッションのロリとダークなイメージのゴシックロリ。


 その容姿はまるで双子のようだが、この二人組に血縁関係はない、と悠奈は知っている。


 気づかないふりをして通り過ぎようとすると裾を捕まれて振り向かせられた。



「”一番星”の悠奈じゃん」


「”元”トゥインクルスターズのセンターの」



 人を完全に見下しているこの二人は、トゥインクルという早見プロダクション所属のアイドルだ。


 悠奈が来たスタジオは早見プロもよく使うから偶然にしては確率の高い遭遇だったかもしれない。



「二人で同じことを言うのは、相変わらずウザいわね。せっかく着飾った私服も腐りきった内面はどうしようもないか」



 トゥインクルは、悠奈や末莉より二学年下の中学一年生。ユニット名にふさわしいかわいらしい顔立ちだが、たびたび問題事を起こすため、人気がなければ事務所に見放されてもおかしくないユニットだった。


 とにかく内面がゲスい。



「ふふっ、せっかく今日もアイドルの祭典に向けてライバルを蹴落としてきたのに、褒めて欲しいくらい」


「ほら、いい子いい子してもいいんだよ、悠奈さん」


「誰が、昔たったの1ヶ月間だけグループを組んでいただけでそんなことをしなきゃいけないの? それに蹴落としてきたって、どうせろくでもない方法を使ってきたんでしょ?」


「えぇ、とても穏便に出場を辞めてもらったの」


「そうそう」



 昔、人としての方向性の違いで悠奈が脱退して、『トゥインクルスターズ』改め『トゥインクル』になっている。



「ちょっと最近人気のあるメスガキが、トレーナーの男の人といるところの写真をネットにばらまいただけなんだから」


「そうそう」



 本当に碌でもないことを悪びれもせずに言う。


 ガキとかいうけど、相手もほとんど年齢は変わらないでしょうに。



「はぁ、ほどほどにしておきなさいよ。問題があると困るのは事務所なんだから」


「はぁい」


「はーい」



 無邪気な悪魔なのに姿は天使のようなかわいらしさを持つトゥインクルの白い方。


 黒い方が無邪気なだけで姉のような白い方に従っているだけ、というのが唯一の救いだった。


 二人と別れて悠奈は軽く汗を流す。


 自分の曲のステップの確認をして、末莉の持ち歌二曲のダンスを復習する。基本的な動作の組み合わせがほとんどのため、難しいステップはないが、速いテンポを好む悠奈があまり踊らない曲調だ。


 一度見聞きしたことはすぐにできてしまう天才キャラで売っている悠奈なので、新パートナーの末莉にもすごいといってもらえるように日々の日課をこなした。


 別に虚像というわけでなく、ある程度はそうできるから、少しの努力でそれなりになる。


 そんなまっすぐな想いを持つ悠奈に少しばかり因縁のあるトゥインクルの、次のターゲットが身近な人物だとは悠奈は夢にも思わない。


 彼女たちのターゲットは、アイドルの祭典で優勝する可能性のある子全てなのだから。


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