EX.竹春高校01
別の場所で投稿しているスピンオフ集のような作りになっています。本編のような試合やシリアスな展開はほぼなしのほのぼのした感じです。あちらが意外と好評でしたので、進みの遅い本編の方でも始めようと思い、勝手に始めました。
EX.竹春高校01
上下愛数からみて山田三咲と大塚栄子はどこか似ている気がした。
すらっと高い身長や男勝りの性格、自分のことをいじめてくる所がそっくりだ。
「ねえ、栄子。昔、友達からはアホの申し子って呼ばれていたってほんと?」
風の流れを断ち切るほどの愛数の言葉にバスケ部メンバーが沈黙した。
その真相を知っている由那はどこか遠くを見て、シズクと三咲は栄子に注目する。
会話の中心にある栄子は愛数を睨みつけていた。
「それは誰から聞いたの? 身内の恥を言うわけがないから兄貴じゃない。そうすると二人に絞られるけど」
栄子はすぐに出そうだった手を引っ込め、考えるしぐさをすると、それを見た愛数がニヤニヤしていた。
「いんや、別に誰からでもないけど。てゆうか、栄子ってアホじゃん。そのくらい言われてたんじゃ――いひゃい、いひゃい。口を引っ張るなよぉ!」
愛数はいじられキャラというよりは、いじってくれないとムカつかせるぞキャラなので、栄子に限界まで口を引っ張られていた。
本人は勘違いしているようだが、こうなるケースのほぼ全てが愛数に原因がある。
女バスメンバー筆頭のおしゃべり少女は、よくその言葉で墓穴を掘り、空気が読めない愛数の受難はまだまだ続く。
「ムカつくムカつく。頭を掴んでぐるぐる回したくなる」
イメージでは横回転ではなく縦回転を想像している。
「そんなことしたら死んじゃうぅ」
「本当はそんなこと思ってないでしょ。チビ愛数は素直じゃないなぁ」
面白そうだと思って三咲も参加しだした。
まるで小さな子供をいじめるガラの悪い不良たちに見えるが、シズクが興味なさげにしているので、当の本人以外は深刻に考えていなさそうだ。
それこそ特殊なコミュニケーションの形とさえ思われているかもしれない。
「チビ愛数ってなに! 愛数がチビだから、チビ愛数って最悪なんだけど! 訂正して欲しいんだけど!」
「ほうら、痛くないぞぉ」
「握力八十の怪力に言われたくない! リンゴみたいにグシュってやられたくない!」
「先輩、握力八十もあるんですか? 兄貴も同じくらいなんて女子とは思えないですね」
栄子は屈託のない笑顔で言う。
天然なのか本気なのか分からないが、それは三咲にクリティカルヒットした。
「おーと、強烈な横槍が入ったが……、まずチビで遊ばないとな」
「ちょっと! 酷くない? 絶対今の悪口の方が愛数より酷いってぇ!」
「それは先輩が決めることだよ。愛数が決めちゃいけないよ」
「その通りだ」
「なにこのコンボ、最悪なんだけど。ちょっと、シズクと由那も助けてよ」
由那はどこがツボに入ったのかわからないが笑いこけて顔を上げられなくなっているが、常識人のシズクはその様子を冷静に見つめていた。
そういえば昨日はシズクも愛数に困らされたと思い、変に口を挟んで危険な目にあわないようにした。
「助けないとシズクの好きな人をバラすよ」
さあ、楽しい第二回戦の始まりだ。
出撃音のようなものを頭の中でかけながら、シズクはゆっくりと立ち上がり、先人の二人に声をかける。
「先輩、私ケータイで写真撮りますよ」
愛数の命運はここで尽きることになった。
このあと身体を畳んで体育館の隅でシクシクと泣いている愛数に由那が付き添うことになるが、達成感を感じる三人は満足した表情を浮かべていた。
仲良しバスケ部は今日も平和だ。
次は本編です!