49:普通になるちょっと前
挑発的なプレーの続く佳澄を見かねて、八重が試合を中断させる。
「――もう十分だろ?」
数回の選手の入れ替えはあったが、佳澄とキアラは一度として同じチームにならなかった。
対戦する中で、佳澄は一度もキアラに負けていない。
十分佳澄が満足できる結果のようだが……。
「そうね――でも、ラストにもう一回だけ」
「ダメだ。ウォーミングアップなしで動きすぎ。それに次の王華の試合が終わっちまう」
「え~、どうせあいつは苦戦しないでしょ。千波みたいな相手はこの地区にはもういないから」
「それでもダメだ」
「……けちんぼ」
「駄々をこねるな。千波の仇を取るためにも、先輩の試合はできるだけ見た方がいい」
八重は佳澄を落ち着かせて、試合会場に戻るように促した。
試合をしている間に結構な時間が経ち、他の者も帰り支度を始めていた。
「ウチの司様は、久しぶりの実家で家族団欒のご飯が待ってるんだったか?」
「そうですけど……やっぱり、久世さんも泊っていかない?」
「仲間と家族は違うだろ? それに隣の会場でやってる中学生大会の方で勝利したのを褒めてほしそうに、そこに隠れてる妹さんと一緒に直ぐ帰った方が良いんじゃないか?」
「えっ、妹がなんで? いや、はい、そうさせてもらいます。それじゃまた学校部活で!」
久世桜は八重たちと会場に戻り、三浦司はユニフォーム姿で物陰に隠れる妹と実家行きのバス停に向かっていった。
残された茉莉とキアラも簡単な別れの言葉を交わして、それぞれ帰っていった。
***
試合の日から一週間後。
友達ゼロのキアラが寂しそうに登校すると、下駄箱に見慣れないメッセージカードが差し込まれていた。
翻訳アプリを使ったのか拙いフランス語が書かれている。
『お昼休みに来て下さい』
――昼休み。
キアラはコンビニで買ってきていた菓子パンを取り出して、小さくちぎりながら口に運ぶ。
ふと、今朝見た行き先の分からない呼び出しを思い出す。
「ドコに?」
キアラは行動を開始した。
呼び出しの定番といれば、体育館裏か屋上だ。
口の中の水分補給も重要。
自動販売機経由で屋上に向かおうとしたが行き方を知らないので、体育館に向かう。
正面から入ってそのまま歩けば裏にたどり着くだろう。
「ついた」
体育館の中に二人の生徒が腕を組んで待っていた。
これから腐れ縁となる三人が出会ったのは、こんなちょっとした奇跡からだった。