45:普通の女子高校生 1
周囲の喧騒が絶えない室内で、直前の授業の教科書やノートが出したままになっている机に、キアラ・セラフィムは、俯せになって気持ちよさそうに寝息を立てていた。
現実離れした容姿を持つ彼女は、普段から周りと距離を置かれている。
片言の日本語は茉莉のおかげで話せるようになっているが、眠っている彼女の方を叩いて「もう、放課後だぞ」という風に気安く声を掛けてくれるような友達はまだいない。
そんな眠り姫を目覚めさせたのは、廊下まで来ていた部活仲間の声だった。
キアラより一学年上の二人組が腕組みをしたまま教室の中を睨み付けている。
半開きになった目を擦りながら、キアラはその二人組を見た。
「……しぇんぱい……?」
そこにはキアラと同じバスケ部員の“佐倉真冬”と“香川乃音”がいた。
なかなか起きないキアラの様子を見て、二人は躊躇いがちに教室の中へ入り、彼女の席のすぐ横まで行く。
「あらあら」
「そこは起きろよ」
背中を手の平で叩いても反応がない。
起こして連れて行くことをあきらめた二人は、そのまま彼女を引き摺って行くことにした。
彼女の肩を両脇から支え、ずるずると教室から出ていく。
しばらくして彼女の意識は覚醒した。
「ウイ、そろそろ自分の足で歩けます」
「いや、いい。頭の上で星がくるくる回っていそうな奴は、このまま引き摺って行くから」
「ウイ、かたじけない」
「どんな日本語だよ。誰があんたに教えたの?」
「大切な、トモダチです」
「そう」
「あら、予想外の返答に乃音が困ってる」
「うっさい」
「うるちゃい」
「お前が一番煩いわ! 誰だ、こいつに変な日本語を教えた奴は!」
茶番の無限ループだった。




