44:現在地3
頭の中心を撃ち抜かれたようなブザー音が鳴り響き、着地の際にバランスを崩した千波は尻餅を付いていた。
全国大会でも、そうそうお目に掛かれないような熱戦に観客たちの歓声は鳴りやまないが、コート上の選手たちは至って静かなものだ。
ぺたんとおしりを付いている千波からすれば、ただただお尻が痛い。
誰か手を引いて起してくれないか、と淡い期待をして顔を上げる。
するとそこには、この試合で圧倒的な存在だった先輩の姿があった。
試合に勝つことが当たり前で、勝利ということに無頓着な澄ました表情は心にグッと来るものがある。
先輩に感じた恐怖や尊敬、そして試合結果への納得。
悔しいけれども、きっとこれを覆すのは自分じゃないだろうな、ということ。
あと、良く分からないけど、自分の唇が震えていた。
「あぁ、やっぱり負けちゃったんだな」
千波は天井の照明を見上げながら言葉を漏らす。
口に出したことで敗北を改めて噛みしめ、急に眼頭が熱くなってきた。
感傷的になるなんて、まるで本気で悔しいみたいじゃないか。
「くそっ、自分で立ち上がりたいのに足に力が入らないや」
周りに今にもこぼれ落ちそうな涙を感付かれないように頭を掻くふりをして顔を隠す。
少し痙攣している両足は、本当に自分の力だけじゃ立ち上がれそうにない。
こんなに情けない姿は知り合いには見られたくないな。
そう思った時、ふと視線が合った人がそこにいた。
***
――千波の視線を一身に受けたキアラは、その空気に堪らず、衝動に任せて会場を飛び出していた。
数秒のタイムロスで茉莉たちも会場の外へ駆けて行った。
「どうしま…………!」
茉莉が心配そうにキアラの顔を覗き込むと、そこには別人のようにくしゃくしゃな顔の彼女がいた。
「見えた。あの子と一緒にいるワタシの姿」
フラッシュバックのように鮮明なワンシーンを彼女は体感した。
敗北して身体も心もボロボロなはずなのに、期待に満ちた瞳で見つめてきた小さな少女から強力なインスピレーションを湧き上がってくる。
「あの子の周りにいるのは、全然違う人たちで、その中心にいるのがワタシたちだった」
「どうしちゃったの? キアラさん落ち着いて!」
自分の感情に混乱するキアラとそれを宥めようとする茉莉。
そんな二人を見ていられなくて、第三者がある提案をしてきた。
「きっと、試合の熱に当てられているのね。しばらく涼しいところにいるか、その熱を発散すればいいんじゃない?」
もちろん涼しい所に連れて行く気など全くない野田佳澄は、中村八重と久世桜、三浦司、東山茉莉に目配せをしてから、ピッと指を突き立てて、ある方向を差した。
「ほら、試合で熱くなった身体を冷ますのにちょうど良い場所があった。少し身体を動かせば、意外とスッキリするかも」
迷っている彼女たちに、言っておきたいことがあって、ここまで来ているお節介集団は、事も無げに3on3の試合をセッティングした。
知っている仲の人を中心に、
チーム中村が、中村八重と東山茉莉、キアラ・セラフィム、
チーム野田が、野田佳澄と久世桜、三浦司、
という、ゴール下チーム対遠距離砲撃チームの試合が即座に始まることとなった。