43:現在地2
唯子のシュートがゴールリングにガコッとあたり跳ね返ってくる。
それを難なく捕球するのは王華の今宮だ。
前半戦とは違い、攻撃に多く時間を避けるよう、今宮が守備に回っている。
ただし、ボールを奪った後の切り替えは早く、人が変わったように変貌する。
「さあ、十三本目を取りに行くわ!」
「いつまでも一人で突破できると思うな!」
今宮のマークに千波がついた。
王華側のコート深くだから、高低差を突かれたシュートを撃たれる心配はない。
もちろん、今宮が他の選手にパスを出すこともないだろう。
「昔から、あんたたちの世代が私に勝てたことはなかった。それはこれから先も変わらない」
「今宮さん一人を止めるくらいなら、全員で立ち向かえば、どうにか――」
「なら、やってみればいい。名嘉真先輩以外で私を止められる奴は今のところ出会ったことはないからね」
真っ向勝負で今宮が千波をかわす。
かわされた後でも千波の長い腕は、追いかけるように今宮のボールを狙うが、ボール半個分届かない。
しかし今宮が抜け出した先には、中京の残る四人が取り囲むように待ち構えていた。
「罠……いや、上手く誘導されたか」
パスはないと割り切った守備に会場がざわめくが、さらに会場を驚かせたのはそのすぐ後だった。
「……それが、なに?」
直線で突撃してくる今宮に反応した新海と古川が同時に距離を詰める。
残る山下と唯子も隙間を埋めるようにそのすぐ後ろにつく。
それを嘲笑うかのごとく、今宮のドリブルはキレていた。
守備でライズ状態をオフにしていた今宮は、ちょうど千波を抜いたあたりからライズ状態をオンにしていた。
今宮の視界は急激にクリアになり、ドリブルコースが視界に線となって見えてくる。
広い範囲を見るのではなく狭い範囲に限定することで極限まで高めた集中力は、針の穴を通すような繊細で大胆なドリブルを現実のものとし、格の違いを見せつけるように中京の選手全員を一瞬で抜き去っていった。
勝つべくして勝った勝負に、今宮は意気揚々と中京のゴール付近でドリブルを続ける。
足の止まっている中京の選手は誰も追いかけて来ることができない。
それでも今宮の前に再度立ちはだかる小さな影があった。
大会最低身長の少女が限界まで伸ばした手の平は、シュートコースをほとんど潰せていない。
ジャンプしたところで大した違いもないだろう。
「――――」
今宮は、この位置からのシュートを辞め、千波を引き摺って行くようにドリブルで中京のゴール下深くへ侵入する。
今宮は、敵として戦った小生意気な後輩に敬意を表し、彼女が今後向き合わなくてはならないことを分からせるプレーで試合を締めくくることにした。
「らぁああああ!」
過剰な攻撃とも取れるようなダンクシュートを千波の上から叩き込むと同時に、王華高校対中京高校との試合終了のブザーが鳴った。
こうして東千波の一年目は苦い敗戦で終わりを告げた。
それを見届けた彼女たちは、そっと席から立ち上がり……。