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10分間のエース  作者: 橘西名
インターバル(憧れの舞台編)
278/305

40:観戦2


 桜は中京のフォワードを細目でじっと観察する。


 頭を掻く仕草や半目なところが、どことなくやる気を感じさせないが、佳澄が気に入りそうなタイプの選手だ。



「ところで中京のフォワードって、昔は有名な選手だったのか? 碧南中学で三年間全国大会に出場した司様なら知らない?」


「いくら地元だからって知らないわよ? あと、司様はやめてください」


「だろうな」



 中京のフォワード――新海はごく平凡な選手の一人だ。


 そうでなければ、才能ある子のほとんど行くことになる王華高校と戦えるはずがない。


 そのくらい、ここ数年間のあの高校は強すぎる。


 特に、昨年今宮が入学した年は最悪だった。


 ――新海が当時二年生で、今宮が当時一年生。


 単純に一学年下の相手と表現するには、次元が違いすぎる相手を前に、中京高校が大敗を喫したのが昨年の冬の事。


 今宮は調整程度の気持ちで臨んだはずが、試合が終わってみればトリプルスコアくらいの点差がついていた。


 その試合の記憶は新海達中京高校側には深く記憶に刻まれたが、今宮にとっては一片の記憶にも残らなかった。





 ***

 千波は、チームメイトの頼もしさに驚かされていた。


 彼女が全力で供給するパスを、今のチームメイトが上手に得点へ繋ぐ。


 昔だったら千駄ヶ谷中学のレギュラーくらいしか取ることが出来なかったパスなのに。



「うわぁ、また決まった。このチームって実は結構強い?」


「今頃なにいってんだ。少なくとも、この大会に出場している他の学校と比べても上位には間違いなく入るだろうさ」



 中京はここでもう一押し加える。


 これまでの千波から新海や古川へのホットラインに加え、シューターの(かみ)にボールを集める。


 試合の前半で全くシュートを撃たなかった中京のシューターは、少々癖のあるシュート感覚を持っている。


 それはここぞというときのシュートをとても大事に考えていること。


 それはこのシュートは必ず入るという確信を持っていること。


 それは唯一無二の自分だけのシュートであること。


 そういったこだわりがシューターには大事な要素になる。




 上のシュートが放たれたときに同ポジションの司と佳澄は息を呑んで見守った。


 そのシュートは、放たれた瞬間にリングの中心を射抜くと分かるものだったからだ。




「撃った瞬間に“入った”って思えるシュートでしたね」


「えぇ、毎日相当撃っているんでしょうね。ここしかないっていうあの人の自信が現れている。ああいったシュートは一度入りだすと止まらないかも」



 上のスリーポイントシュートが入ったことで、一時は四十点差以上離れていた中京と王華の点差がその半分以下に縮められた。


 そこへようやく遅れてきた三人が到着する。



「今宮さんベンチじゃん」


「あっ、まだ試合終わってない」


「……(この場所は知ってる)……」



 ようやく揃ったキャストの集合を待っていたように王華高校がタイムアウトを取って試合が中断される。


 コートの外で輝きを失っていた彼女は、やはり本来いるべき場所へ帰ってこそ本来の輝きを取り戻せるのだ。


 少しばかり苦い経験をさせたことで、それはもう鬼の如き表情を浮かべながら、彼女はコートへ足を踏み込む。



「さあ、今度は手加減なしの全力の私を止めて見ろ! 魔法モドキのチンケなトリックは、私には通用しない!」



 千波のパスや中京の策を打ち破る術を見つけて、千波たちを止めていた時間が1とすれば、残る9は千波たちの仕掛けた次なる策にハマってコケにされた今宮は、相当なストレスを抱えていたに違いない。


 自分がやればそんな策にハマる前に打ち破っていた、と何度も考えた。


 その悔しさを与えた相手に骨の髄まで教えてやろうと、本気の今宮がコートに入ってきた。


 去年の全国大会以来の極限の集中力――“ライズ”をフルに爆発させ、千波を初めとする千駄ヶ谷中学出身の後輩達を圧倒するような重圧。


 その重圧を真正面から受ける千波たち中京高校は、どのような顔をしているのだろうか。


 勝負を楽しみにする笑顔か、恐怖で身体が委縮する絶望の顔か。


 それは観客席からは良く見えない。




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