36:ユーフォルビア1
赤く色づいた葉が特徴的なその花は、その見た目から「私の心は燃えている」という花言葉を持っている。
そもそも花びらではなく葉の方に花言葉が付いていることが既にユニークなのだが、この花は育て方次第で様々な色彩を持つことがある。
日の長さや気温が違うと、赤色だけでなく白色やクリーム色、赤と白のマーブル模様、紫など様々な姿を見せるこの花は「ポインセチア」と広く呼ばれ――――知名度の低い学名では「ユーフォルビア」と呼ばれる彼女たち二人のユニット名である。
日本語初心者の“キアラ・セラフィム”とおっとりマイペースな“東山茉莉”のユニット「ユーフォルビア」は、じわりじわりと彼女たちの評判が浸透していく不思議な人気を持っている。
キアラが愛知にいる間限定のユニットだとしても、日本人とフランス人という組み合わせのアイドルは珍しく、茉莉の所属する弱小事務所一世一代の大勝負で投資した宣伝効果で週数回のミニライブを開催している。
ミニライブに関しては、メインボーカルを茉莉が、ダンスをキアラが担い、この日も盛況のうちに幕が引かれ、控室の彼女たちは談笑していた。
「やっぱりキアラさんの動きはキレキレで凄く良いですね」
「そうでも――あるのかな?」
「――えっと、キアラさんが日本語を覚えてくれて嬉しい反面、残念なところが……」
「???」
「素直――というよりは凄くストレートなことを言うからたまにビックリするというか」
「 “エクスキュゼモワ” 」
「確か、“ごめん”だっけ? 別にそういうのじゃないけど。
妖精みたいな人が、実は純粋な心を持っていなかったことがちょっとショックなだけというか、ファンにさえばれなきゃ問題ないというか、なんというか――ね?」
「この頃は、ツンデレを勉強してます!」
「そうだね! 一番ばれちゃいけないのは、そっちのキャラだったね! 見た目は白銀の妖精で、中身がガチなオタクなのは、事務所NGレベルだよ!」
「ぶーぶー」
「クッションみたいな音を出さない」
「――――」
「顔だけで訴えない!」
今のは少し可愛かった。
二人のユニット「ユーフォルビア」が活動を開始して早一ヶ月。
運動神経の良い二人組なので、多少難易度が高いダンスでも体力の続く限りのレッスン魂でなんとかこなして、半人前二人を合わせれば一人前のアイドルの出来上がり。
二人が共に過ごした日々の数だけ、キアラの表情は柔らかくなり、言葉も少しずつ覚えたのに対し、茉莉は楽しげな会話の中で複雑な表情をすることが多くなった。