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10分間のエース  作者: 橘西名
インターバル(憧れの舞台編)
273/305

35:変化


 今宮のアドバイスは実に効果的に働く。


 ボールの軌道を眼だけで追っていた今までは、頭で理解している変化と実際とが違って視界を外されてしまっていた。


 しかしその要領さえ掴んでしまえば、微小な違いを読み取り、次にどのような変化をするのか判断する。


 それを出来るメンバーが今試合に出ているのだから、動き出しさえ間違えなければ、このパスをカットできる。


 こうなることが分かっていたこととはいえ、王華の監督は不満を零す。



「これがお前の望んだ展開なのか?」


「私の作戦に不服でも? それとも他に何かありますか?」


「東千波のトリックパスはこれで封じた、と」


「そうでしょ」


「このチームだからできた策で、他のチームでは分かったところで難しい。変化自体は眼が慣れればどうにかなるが、反応だけは選手個々の能力が必要だからな」


「そうですね。そこは、他の学校ならエース級の選手が、それがゴロゴロいる王華なら心配いらないでしょ。何を心配しているんですか?」


「ならどうして“中京の選手”はあのパスを平然と受け取れているのかね。それの方が普通じゃないだろうに」


「そんなの…………知るか」



 今宮がハッと何かに気付いた時には、試合が大きな変化を見せ始めていた。





 ***

 後半に入り、試合は序盤に比べて落ち着いている。


 王華のエース投入と規格外のパスを操る小さな勇者の奮闘。


 中京の攻撃は、ほとんどがその小さな勇者――東千波のトリックパスを起点にしているが、試合の途中でその種が明かされてからは一方的に点差が広がり続けている。


 ここまで試合が一方的になったのは、パスをカットされることでカウンターを受けやすくなり、得点機会がほとんど失点になってしまったのが大きい。


 でもこうなることは、この試合で勝つために必要なステップだ。


 千波のパスは確かに強力で、並の強豪校なら簡単に打倒できただろう。


 それが幸か不幸か予選二回戦で並でない強豪校とぶつかっている。


 昔同じ中学で先輩だった人。


 当時は手も足も出なかった相手。


 彼女がいない一年間は、中学最強を誇っていたが、同じ土俵に立てば、その実力差は縮まるどころか、より大きくなっていると知らしめてくる。


 そんな相手を倒すために彼女が考え、チームが応えてくれる戦い方は、勝率をゼロから100へ変える奇跡のような魔法。


 試合の序盤から相手に掛け続けた魔法は、いまになりようやく実を結ぶ。


 千波のバリアブルパスは昔から――唯一無二パスなのだから。





 ***

 中京高校が王華高校に見せる魔法は、今宮が信じられない光景を見せていた。



「どう――したの?」



 初めからこのパスは不自然だった。


 千波と言えば、中学時代は相手の手の届かないところへパスを出していたが、今は相手の正面に出している。


 確かに今宮が知っている昔と比べても変化量は大きくなり、一番負担の少ないコースを選択しただけなのかもしれない。


 しかしそれだけではないはずだ。


 守る側からすれば、スペース目掛けて放るパスは視線を左右に揺さぶられ、正面に来るボールはただ前を見るだけで済む――その違いが大きな違いなのだ。


 王華の選手が、千波がボールに掛ける微小な変化から先読みできるのは、全国クラスの実力を持っているから即時にできたこと。


 だがそうなることがこの試合最大のトリックで、気付かなかった時点で負けのようなものだ。


 このパスは、目で追えるようになった次の瞬間に化け――――視界から消え去る。



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