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10分間のエース  作者: 橘西名
インターバル(憧れの舞台編)
267/305

29:バリアブルパス


 二十四秒を目いっぱい使ってスリーポイントを放つ王華の選手は、リバウンドに誰も向かわず、シュートが入ろうが外れようが自陣に下がる。


 そのシュートはリングに跳ね返って古川の手元に入り、中京は千波にボールを託す。


 中京は今までの流れを汲んで千波のパスに賭け、王華は本気で一本止めに来た。


 普通なら完全に塞がれたパスコースは、魔法のような軌道を取る千波のパスに掛かれば、穴だらけの状態だ。


 ただその先頭に今宮が陣取っているのが、相当に本気なのだと感じさせる。



「ごめん。ここは“コレ”だけじゃダメそうだから使うよ」



 千波が形ばかりの謝罪を口にして、ボールを構える。


 これまで同じように敵陣の中央へ向かってボールを放り込む。


 その先には王華最強の壁が立ちはだかり、直ぐ近くに王華の選手が変化した後のボールを取りこぼさないように構える。



「それじゃあ、僕のボールは止めらんないよ!」



 ボールが変化する軌道を感覚的に記憶していた今宮は、手だけでボールを取りにいかないように慎重にタイミングを計る。


 腕一本半の距離までボールが近づいた頃にボールの軌道は変化を始める。


 そこで手を出しても既に間に合わないので、手が届かない距離で手を出さなければならない。


『イチ、ニ』とタイミングを取り、手を伸ばすがその手にボールは触れることはなかった。


 今までとは比べようもない大きな軌道で、ボールがコート端の味方へ届く。



「ちっ――止めろぉおお!」


「うわっ」



 コート端でボールを受けても得点へつながらなければ意味がない。


 直ぐに指示を飛ばすことで中京の選手はゴール下に入る機を逃したかに見えたが、コート中央まで走り込んでいた千波が片手をあげボールを呼びこむ。



「どうとでもなれ!」



 中京の選手が千波にボールを渡すタイミングも王華には想定内。


 そこを潰す準備は整っていたが、千波はその予想を超えてくる。


 千波はボールをキャッチするふりをして、特別なパスを使わずに、右手で受けたボールをその勢いのまま身体ごと流し、左腕の肘でコート右側に弾きだす。


 それをパスと言っていいのか分からないが、運よく味方のいる方向へ弾かれたボールは今度こそ得点につながった。




 監督が言っていたように、千波の使ったパスは二種類ある。


 初見で見切られたパスと同じようで違うパスは、変化量を大きくするために変化の始まりが少し早い。


 それを見切られると難しい展開になるが、その可能性は低いだろう。


 多少なりとも試合の段取りは前後したが、対今宮用のパスは他の選手には使わない。


 逆に今宮には変化量の小さなパスは使わない。


 そう割り切っている分、こちらが有利な状況はいくらか続くはずだ。


 それが有効である間に必ず今宮はベンチへ下げられる。


 王華が王者である限り、それは絶対なのだ。


 そうすれば試合は次の段階へ進む。


 一人の化け物がいなくなればこそ、東千波の“バリアブルパス”は真価を発揮する。



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