23:心を掴む目標
彼女たちの道はどこから違ってしまったのだろう。
一度は同じコートに立ち、互いに感覚を共有した二人は全く別の道を歩んでいる。
あの日から入れ替わるようにバスケ部にいる東千波は、相棒の帰還を待ち続けて高校入学後、初めての夏を迎えようとしていた。
中京高校のチーム事情はごくごく平凡だ。
時間目一杯使って攻撃を組み立てるPGに、釣り目で怖い雰囲気のC、練習中でも試合中でも頭を掻く癖のあるPF、自己主張少なく一試合に数えるほどしかシュートを撃たないSGなどが千波以外のレギュラーメンバー。
ハッキリ言って何の統率も取れていないこのチームをまとめたのは、経験が浅くジャージ姿が眩しいポニテお姉さん監督(二十二歳)。
その方法は、当たり前の事で思春期の少女たちを刺激する言葉から始まった。
「まず目標を決めたいと思う」
千波たちのいる中部地区は激戦区の東京や大阪と比べれば大したことはなく、全国へ行けるのは優勝校と二位から四位までのうちの一校と、比較的緩い条件でいける。
そのはずが、一方で理不尽な予選とも呼ばれている。
その原因を作っているのが一強を誇り一時期は日本代表を控えに置くほどだった“王華高校”が同じ地区にいるためだ。
そのチームとベスト四へ届く前に当たった時点で全国の夢が強制的に潰えるから、理不尽な予選ということ。
それを知るからこそ決まった目標がコレ。
「とりあえず打倒、王華高校ってことにしましょう」
軽々と言ってのける彼女の姿は初めこそ滑稽に見えたが、そのための秘策を聞いてからは、そう思う人はいなくなっていた。
『全国まで勝ち続けるのは難しいね。でもたった一回の勝利を掴むのはそんなに難しいことなのかな?』
『私達がこれからやろうとしているのは“ジャイアント・キリング”。そのために呼んだ子もいて、こんな機会は滅多にないよ』
『その子の実力を見ればみんなも納得できると思う。いつの時代も下剋上は起きるものなんだってね』
『――だから自分たちを信じて!』
彼女の言葉を聞かされ続けた千波たちは、大会の組み合わせが決まるまで本気で下剋上を狙って練習に励んでいた。
それこそ三年分を三か月でやってしまうくらい徹底的に。
明確な目標は、それくらい分かりやすく彼女たちを突き動かす。
そうして決まった組み合わせは、中京高校が順当に勝ち進めば、二回戦で第一シードの王華高校。
今宮ひかる率いる高校女子バスケットボール界最強の学校との試合は、エース候補なのに大会のメンバーにも登録されていないキアラを除いた状態で始まろうとしていた。