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10分間のエース  作者: 橘西名
高校生編(竹春高校)
26/305

07:未完の大器

 勝負前に聞いた秀人からの助言は「本気は出すな」の一言だけだった。


 しかしあと一本で勝負に勝てる状態で悠長にしていられるほど、由那に余裕はなかった。


 才能の塊みたいな人の弱点は初めのワンプレーではっきりとしたが、今の由那にそれを突破できる手段はない。


 相手が見たこともないテクニックで抜くことはほとんど出し尽くしている。


 ならばと思いつきで考えたプレーをしようと思う。



「先輩にも楽しんでもらえているようでなによりです――ってきっと聞こえていないんでしょうけど」



 三咲は開始と同時にものすごい速さで距離を詰めてくる。


 その気迫に負けないように由那は身体を使ってボールを死守し、何とか三ポイントラインを踏める位置までゴールに近付いた。


 これなら、ここからジャンプシュートを打ってもルール違反にならない。


 抜きに行くと見せかけて、由那はジャンプシュートを放つ。



「こんのおおぉぉ!」



 三咲は一度つられて前屈みになるが、足腰の強さでジャンプシュートに食らいつく。


 突き出した腕は由那のシュートコースを完全に塞いでいる。


 周りにいる生徒たちも、これまで以上に早い反応に「ついに勝負がつくか」とざわめく。


 それら全員を飲み込むような由那のプレーが冴え渡った。



「な、なんだよそれは!」



 由那は少し後ろに飛び身体を傾けていた。


 本来なら防げるはずのシュートも、三咲の手の上を行くように大きな弧を描いて由那のフェイダウェイシュートは決まった。


 そのプレーに周りが息を呑んでいる最中も三咲だけは、最後まで勝負をあきらめずに審判に抗議をしていた。



「ちょっと審判! 今のシュートはラインより外だったぞ」


「いや、ちょっと……」



 女子同士とは思えない激しい攻防に目を奪われていて、足元に注意していなかったバスケ部の人は困った。


 それを察して由那は「もう一勝負しませんか」と先輩に提案した。


 三咲からボールを受けて、今と同じルールでもう一勝負。


 出し切った感のある由那を心配そうに見つめる幼馴染がいたが、由那は大丈夫と目で伝える。


 そのすぐあとにあった延長線の勝負は意外にもあっさりしたものだった。



 三咲は由那へパスを送るときにワンバウンドさせて、距離を詰める時間を作った。


 それが既にルール違反だが、それを指摘する前に勝負はついていた。


 ここまでの十本中十本。


 由那の動きに奇跡的な反応をみせた三咲がピクリとも動けず立ち尽くしていた。


 距離を詰めて由那の前まで行った筈のところに彼女の姿はなく。


 気付けばだいぶ後ろのところで完全にフリーな状態から由那がゴールを決めていた。


 それがこの勝負で唯一見せた、由那の本気。


 伊達に一年生の時点で最強の中学でエースを張っていたわけじゃない。


 今まで見せてきたプレーの全ては、彼女がエースになってから覚えたことに過ぎないのだから。



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