21:立ち向かう
全速力で上園が前へ上がったため、それに引っ張られるように相手の陣形が変化する。
特に顕著だったのはマンマークで付いている二人。
後輩いじりをしたい今宮とリベンジを目論む佐倉が敵陣深くに入る。
残りは得点源の三浦にメアリー、ゴール付近の東山にはキアラ、日高に小倉が付いている。
今のチームだとこのマークさえしておけば失点は防げるということだろう。
ロングシュート主体の早見よりは、ゴール下で存在感を見せ始めた東山の方がゴールを決める確率で言えば高い。そういった理由で早見はフリーだ。
得点源を全て潰された鉄壁の守備陣形を突破するためにどうすればいいのかといえば、今ボールを持つ日高とそれをマークする小倉に掛かっている。
日高は一呼吸置いて正面の敵を見据える。
「あかねさんとこうして勝負するのは、代表戦の壮行試合ぶりでしたっけ?」
「君が引っ張るU―15のチームとウィンターカップ出場高校の選抜との試合のことかな」
「普通、壮行試合なら勝って弾みをつけるのに、先輩たちは容赦なくこっちを叩き潰そうとしてきたのは覚えていますか?」
「そういうつもりはなかったよ」
「はい、あまりにも舐められた試合でした」
「舐めたなんて心外かも」
「それなら先輩は、負けて悔しくなかったんですか? 負けて当然なんてメンバーじゃなかった。どうして二つ以上年下の私達に敗北して平気でいられる。正気じゃない」
「……結構、言うね」
日高は別に悪口や文句を言いたいわけじゃない。
自分の思想を相手にぶつけて自己満足をしているわけでもない。
未熟者の自分よりバスケの上手な人は星の数ほどいて、その一人一人を尊敬さえしている。
しかしその人たちが間違ったことをしていれば嫌な気持ちになるし、怒りたくもなる。
なぜならその人たちとは、決して敵わない相手というわけではなく、いつか乗り越えてやろうと彼女の野望をぶつける相手だからだ。
だからこそ、分かりやすく優劣を決める勝敗に無頓着な人は絶対に許せない。
「だから、このときを待っていた」
日高には、強者と認めた人を前にしたとき、昂ぶる気持ちが一転して落ち着くときがある。
「だから、もう一度負かして、私がプロになるための礎にさせてもらう」
目の前が真っ白になり意識が強制的に“無”に還される。
そこから生み出される力を積んで、自らを高めていくのが彼女のバスケを象っている。
プロになるという目標は相手への威嚇であり、自らを最高の状態で維持し続けるための劇薬にもなる。
「望むところ! 例のパスでも何でも使ってくればいい!」
彼女が既に至っている極限の集中状態は、俗に“ゾーン”と呼ばれる。
それを試合時間目一杯に使うことができたとき、それは他を圧倒する。