15:籠球小町
茉莉が遠方まで来ているのは、道場破りならぬライブ会場破りだけが理由ではない。
流石にそんな無謀なことだけのために、関東~中部間を自動車一台で来ることはないだろう。
歌もダンスも練習不足で、レッスンに割く時間を削ってまで来たのは、大きな仕事が彼女に舞い込んで来たからだ。
あるスポーツ特番に選手だけでなく、華やかさを重視した若くて知名度が低いタレントが数人呼ばれている。端的に言えば出演料が安く済む駆け出しのアイドルで、ただ可愛いければ良い子の一人として声を掛けられたのが東山茉莉なのだ。
その番組は急速に発展中の女子バスケットボールに注目して、全国の中学・高校の女子バスケットボール部員の中から実力だけでなく見た目も華やかな少女たちを集める。
会場は、距離的にも中間に位置する中部地区最強にして、全国大会連覇中の王華高校。
集合の一時間前に彼女たちは会場に訪れていた。
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自分たちの親が学生だった頃に人気だったマイナースポーツは、最近になって再び人気を吹き返している。そのキッカケの一つは中高でコンスタントに強い学校が現れ、それを追随する学校が次々に出てきたことだ。
中学でいえば圧倒的に強い“千駄ヶ谷中(東京)”を追うように“碧南中(名古屋)”や“夷守中(福岡)”、“湘南第三中(東京)”など。
高校でいえばインハイ五連覇中の“王華(名古屋)”を追うように“鳳凰(京都)”や“開成(三重)”などなど。
そしてそれぞれの学校にエース級の実力を兼ね備え、しかも美少女である人たちがいた。
それを某スポーツ特番で取り扱ったのが約一年前。
彼女たちがバスケットボール選手ということから『籠球小町』と呼び、アイドルのような扱いでテレビに出演させたのが人気の発端だという。
この企画は籠球小町と茉莉たち『リトルチャレンジャー』とが試合をするという、非常に脳筋なショートコーナーだ。
その内容を知らずに同行しているキアラは、直前になってドタキャンした他の子の代わりに試合のメンバーに選ばれるとは思ってもいない。
王華高校の体育館が中京より一回り大きいことに驚いているだけだった。
「この高校にいる“今宮ひかる”さんっていうのが、籠球小町の一人で――」
隣にいる茉莉が今日来る人たちを説明する。
今日の茉莉は動きやすいようにジャージ姿で、下には中学校の体操着を着ている。髪は後ろにまとめたポニーテールにしていつもより活発なイメージ。
「あとは、千駄ヶ――じゃなくて高円寺高校の“野田佳澄”さんに、鳳凰高校の“小倉あかね”さん、開成高校の“佐倉深雪”さん」
今日来る面々を指を折って順番に上げていく茉莉は、最後に勿体ぶりながら言う。
「最後にU―15日本代表のキャプテンを務め、去年のインターミドルを席巻した“日高遥華”様が来るんですよ! 知ってますよね!」
「……ひだか……はるか……様?」
キアラはその名前を知っている。
彼女が出場することのなかった世界大会で、日本代表を率いた“日高遥華”という選手は、雲の上の存在のような人だった。
少なくとも大会開催から優勝し続けているアメリカ代表相手に最後まで食らいついたのは、他の全選手を含めて彼女だけだった。