14:ウイ、アイドルになります
中京高校では、千波が不良男子に声を掛けられていた。
「おい、お前はやりたいことを見つけたのかよ」
「うん? 僕に不良の知り合いはいないけど…………キアラだった頃の知り合いかな?」
「別に、そっちがそういうつもりならもう話しかけねえよ。じゃあな」
「待った、待った。どうせヒマそうなら、ギャラリーの一人にでもなってよ」
「ギャラリーって、軽音楽部のライブでもあるのか?」
「紅白戦さ」
「…………」
「女子バスケ部の紅白戦さ」
「……帰るぞ」
「なんでさ!」
「そういう趣味はないからだ――いや、決して男が好きというわけでもない!」
「どうしてそんな話になったのか。小一時間ほど問い詰めても良いけど、今は時間がないから! はい、四の五の言わずに付いてくること!」
「いや、だから女子の運動部を見に男子が行くなんて――」
「青春だね!」
他の人の話なんて聞いていない千波は、体育館まで不良男子を連れて行った。
そこには、不良男子が噂でしか知らなかった彼女がいた。
百四十ない低身長に破格のバスケットセンスを詰め込み、放課後をゲームセンターで過ごすのが、ただの寄り道でしかないと思えるほどにコート上の彼女は別人だった。
「なんだよ……自分は俺とは違うってのを見せつけたかったのかよ。そうかよ……」
千波が面白いものを見せようとしたことは、結果として彼の心を深く傷つけた。
自分の才能の活かし方を知っている人が、自分探しに迷っている同年代を傷つけるなんて良くあることだ。
ただ彼女は、そのプレイスタイルから身内に敵を作りやすかった。
***
茉莉の写真に声を失っているキアラの後ろから、マネージャーが顔を出した。
「ほら、次に行くぞ」
『待ってください。今はそっと静かにし――』
「何を言っているか分かんないけど、車の中で茉莉の話し相手にでもなってくれ」
「ウイ?」「分かってるよ」
衣装のまま二人は次の現場へ向かう。
車の中で次のステージ衣装へ着替えなくてはならないのだが、茉莉は後部座席で体育座りをしたまま動かなかった。
「まつり?」
「何、キアラさん?」
キアラは聞きたいことがあるけど、その言葉が出てこなかった。
それを察して茉莉が口を開く。
「あぁ、さっきのは気にしないで。別にトラウマってわけじゃなくてビックリしただけだから」
小さく丸まっている茉莉の身体の震えを抑えるように、キアラが身を寄せて包み込むように抱きついていた。
見ず知らずの関係だが、同じように弱い心を知っているキアラだからこそ彼女を支えたいと思った。
だからこそ出た言葉だった。
「ワタシ、アイドルやります」
キアラの新しい道はこうして始まる。