13:アイドルの秘密2
なるべく目立たないように控室に入り込み、手早く準備を始める。
明るい配色に少し多めの露出が気になるが、茉莉とキアラでそれぞれMサイズとLサイズの衣装を着る。段取りは茉莉の頭の中に全て入っているため、リハーサルなしで彼女たちは舞台へ向かう。
人混みを掻き分けて、狭い廊下を駆け抜けて、少女たちはステージへ上がる。
すぐ傍にいるスタッフからマイクをクルリと一回転させながら受け取り電源を入れる。
ハイテンションな茉莉にキアラが戸惑っているが、ここまで何だかんだ付いてきた彼女たちはユニットのように身体を寄せて歌いだす。もちろん歌うのは茉莉だけだ。
デビュー曲の一曲しかない茉莉は三分五十秒を精一杯の想いを込めて歌う。
何のレッスンも受けていないダンスは、その場の雰囲気にまかせたアドリブだが、見ている人が意外にも楽しそうだ。
キュートでポップな歌詞に合わせて、ステージ上の二人は手を繋いで回ったり腕を振り回したり、滅茶苦茶な動きなのに見ている方はつい真似して身体を動かしたくなってくる。
彼女が持つ“人を引き付ける才能”は、ただ彼女の心を満たしているものを外へ溢れ出させているだけだ。
純真無垢で一途な気持ちが、彼女をここまで輝かせていた。
♪♪♪
歌い終わるとステージを飛び降りた茉莉が観客たちと握手を交わしていた。
するとステージに残るキアラにも声を掛けるお客さんに茉莉が声を張る。
「だめだめ、初ステージで手汗びっしょりのキアラの手は私が予約済みだから! 抜け駆けはだめっ!」
会場からドッと笑い声が上がるのに、茉莉の視線は観客の一人が落とした物を見つめている。
彼女は吸い込まれるようにそれを拾い上げると急に走り出した。
登場がドタバタしていたせいか退場もそうだと思われて誰も不思議に思わなかったが、茉莉が変になっていることはキアラには分かる。
ほんの十数秒前まで歌って踊れるアイドル全開だった子が、楽しんでくれている観客を放り出してどこかに行くなんて有り得ないことだからだ。
「……ワタシも」
遠慮がちにステージを降りるキアラは、次にステージに立つであろうバンドの人たちにお辞儀をして茉莉を追いかける。
控室のパイプ椅子にもたれ掛かるように彼女はいた。
『どうしましたか?』
「えーと、良く分かんないけど心配されてる?」
「ウイ(はい)」
走ったり飛んだり忙しい彼女は大粒の汗を浮かべているが、汗を拭うタオルを用意してなかったので、衣装の裾を上げて汗を拭う。
それでも身体を動かして出た以外に、冷や汗のようなものを次々と出ていた。
まるで悪夢か何かを見た後のように顔色が青白くなっている。
「これを見てくれます?」
茉莉が会場から持ってきた一枚の紙を見せてくれる。
それは一枚の写真だった。
今の茉莉を一回り幼い感じにした可愛らしい女の子の写真だが、彼女とは似ても似つかない。
同い年の男の子たちの中心で泥だらけになりながら、元気いっぱいの笑顔を作る少女は、今の茉莉より幼いが、横幅が倍以上もある。
ふっくらした肥満体型ではなく、土俵の上で培った練習の賜物で鍛え上げられた筋肉で身体が膨らんでおり、回しをして肌の露出も多い相撲少女の写真だ。
「あはは、普通はそういう反応ですよね。ほんの二、三年前の私なんですよねー、それ」
溜息を尽きながら茉莉はそういった。
キアラは必至に知っている日本語の単語を思い返して、今言われたことを翻訳する。
「ウイ?」
翻訳できても目の前の事実をキアラは理解できなかった。