06:才能と素質のかたまり
それ以降は、ルールに従ってプレイしている由那と、気迫を体現しているような三咲。
その勝負のどれもが常にギリギリのところで由那がかろうじてシュートを沈めていた。
三咲からすればあと一歩届かない。
それこそファーストシュートのときと同じ感覚で八本連続決められた。
勝負を観戦している人たちが騒がしく勝負の戦況を分析する。
「どうしてあと一歩届かないんだよ」
「でもそろそろバスケ部の子の技も尽きてきたんじゃない?」
「背の高い人もどんどんキレを増してきてるから、次くらいに止められるんじゃないのか」
「正直、あの子がここまでどうして勝てているのか不思議でしょうがない」
残り二本、休まる暇のない勝負に緊張感が纏い由那の頬を汗が伝った。
重心を前に置き、左右に素早く動き出せる体勢で三咲は構えている。
「バスケって楽しいですよね。一時だけですけど、好きになってもらえたら嬉しいです」
「早く次をやろう。今度こそ捉えてやる」
三咲は楽しむというよりは勝負に真剣すぎて怖い顔をしていた。
それが由那には少し寂しかった。
「山田先輩、私はこの勝負で先輩にバスケの楽しさを教えてあげます」
「上等だ!」
由那は、どんな動きにも対応できるよう構える三咲に真っ直ぐに突っ込んでいく。
ボールを抱え込むように、背中から身体をぶつけるような強引な突破を図る。
「力勝負なら負けないぜ。まあ、そんな単純な事はしねえと思うけど」
三咲が言うように、由那は体勢が崩れる前に力を抜いて距離をとる。
この位置からシュートをしては、ルール違反になるためドライブで左を抜いていく。
どちらかといえば“左”と意識していた三咲に先を読まれたかに思えたが、滑り込むように左側へ滑り込んだ由那は、低い体勢からゴールへ向かってボールを放り投げた。
一か八か、リングの上を転がるようにかろうじてそのシュートは決まる。
そして最後の勝負を前に三咲は気合を入れ直す。
観客からペットボトルに入った水を受け取り、それを頭から全身に滴らせる。
集中力を高め、油断や雑念を全て捨てて見えてくるものがある。
それは柔道の試合でなら何度か味わったことがある。
運動部の化物の本領発揮だ。
「私は負けたくない」
「私だって負けられません」
ギリギリの勝負の中で三咲の何かが変わるのを由那も感じ取った。