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10分間のエース  作者: 橘西名
インターバル(憧れの舞台編)
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11:違う世界の人

 尻餅をついて見上げた先には金髪青眼が冷たく見下ろしていた。


 遠くから見ていたはずの光景が眼前に広がる。


 先程まで私だった彼女は傍観する側に変わり、元々の場所に戻った私が当事者になる。



「大丈夫、立てる?」



 怖さと緊張と恐怖――色々なものを感じて腰が抜けているところへ横から彼女が手を差し出してくれた。



「……メルシィ」



 彼女の身体に抱きつくように立ち上がると触れている彼女の身体の小ささが良く分かる。


 キアラが小学生だった頃より小さいのに、彼女はバスケを好きでいられるんだと痛感する。


 試合を楽しむ彼女の姿が重なって見える。


 どうせなら、バスケが上手にできる自分の身体をそのまま使ってくれれば良かったのに……。




 ***

 突如終わりを告げた摩訶不思議現象。


 二人の人間の心と身体が入れ替わるという凄いことが起きていたのに、元に戻るまで気付いた人はいなかった。


 変化のあったことといえば――。


 不良男子に絡まれなくなった千波は普通に女子と話せるようになった。


 男子の方はつまらなそうな顔を見せても、彼から話しかけることは一回もない。


 外国人ブームの去ったキアラは無口なミステリアスキャラがすっかり板についている。


 ただ日本語が話せないという理由で無口になっているとは、初日から千波が勝手に流暢な日本語で話したせいで誰も思わなかった。


 そして彼女たちはそれぞれ道を歩み始める。


 千波はバスケ部へ正式に入部し、ズル休みをして練習試合中に棒立ちだった人とは別人のような姿を見せているという。


 中学から高校へ変わり練習の厳しさが増しているにもかかわらず、一年生の中では練習初日からついていけるのは流石だ。


 中学時代の彼女は派手な技で魅せるバスケ主体であっても、基本に忠実なバスケもできる。


 練習している姿を見れば、基礎がしっかりしている。それは素直に共感できる部分で、それまでに積み重ねてきたものとバスケに対する真剣さが上級生達にも感じ取れて部の結束が少し上がる。


 しかし戦力で見ればマイナス。


 もう一人が部へ顔を見せなくなったからだ。




 何をしているのかといえば――――電車で街まで出て、美少女と黒服のカップルと一緒にいた。



「ホントに来てくれたんですね! 連絡しても全然返信してくれないから、ダメかーって思っていたけど、信じて正解でした!」


「……オ・ルヴォワール(さようなら)」


「きっと頑張ろうって意味ですね。そう思いません?」



 キアラが手を振って帰ろうとするとその手を掴まれた。


 鼻がぶつかりそうなくらい距離感近く話してくる。


 少女は長身のキアラと並ぶと小さく見えるが、日本人なら十分に長身に入る百七十後半で千波より年下とは思えない。


 澄んだ瞳はパッチリ大きく、柔らかそうな肌はつい触ってみたくなる。髪をピンク色のリボンで左右に結び、通う中学校制服のままキアラに会いに来ている。


 その脇には黒服の男性がガードマンのように付き添っているが、下手をすれば職務質問をされて連れて行かれそうなほどボサボサした髪で不健康そうな顔をしている。


 まるで車で長距離を休みなしで走って来たようだ。



「そう思いますよね?」



 彼女が黒服に心配そうに尋ねる。


 質問を質問と受け取っていない黒服は、あわてて返事をした。



「いや、確か、フランス語で別れの挨拶だったと思うぞ」


「えぇー、どうしてそういうことを言うんですか。信じられない……」



 今度は黒服の人と顔を近づけて話していて、二人とも私服なら本当のカップルのように映ったかもしれない。


 しかし彼女は中学校の制服、男はビジネススーツで犯罪の匂いしかしない。


 キアラも初めは怪しい勧誘かと頭に浮かんだくらいだが、彼女たちはそんな裏社会とは程遠い世界の住人だ。



「プロデューサーと私とで見つけたパートナーなんですから、絶対にそんなこと言ったりしません!」



 彼女の名前は東山(とおやま)茉莉(まつり)――現在中学三年生で東京在住。


 中部地区でイベントがあるからというだけでプロデューサーの車を走らせるアイドルの卵。


 そして先週、道端で偶然出会ったキアラを同じ世界へ誘った人である。



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