09:正反対の二人
試合は中京の押せ押せムードから、瞬く間にキアラの知る暗闇の世界に塗り替わっていく。
透明人間にでもなったかのように試合に関与していない彼女は、ただ茫然と一人の選手を見ていた。
鏡を介してか録画した映像くらいでしか見ることのできない自分。
それが別人になって直ぐ近くにいるというのは衝撃的だ。
そして自分以上に動いているそれを完璧に止められる相手が現れた。
「あっ……」
ほんの数分前に投入された相手校のエースに千波のジャンプシュートはブロックされていた。
これで五本連続、そこからのカウンターによる失点も防げない。
向こうにいたときも同じような場面に陥ったことがある。
高さや速さ、技術、経験値その他諸々全てを上回る相手がキアラは苦手だ。
誰だってそのはずだ。
どのような競技であっても必ず順位がついてきて、相手が自分より優れているなんてことは年齢を重ねるごとに増えてくる。
そう自覚した瞬間に自分の瞳がどす黒く濁りだす。
そうなると全身が委縮して、劣勢な状況をリカバリーできずに前いたチームでは敗退した。
手も足も出ない相手ならまだしも実力伯仲の相手でさえ、本来の実力の半分も出すことが出来ないこの悪癖はどうしようもなく嫌な気持ちになる。
そんなとき千波は頭に手を置いて立ち止っていた。
「――――――あちゃ~~」
負け続けているのに絶望なんて微塵も感じさせない笑顔を見せた。
***
すごい、スゴイ、すごい。
野田が言っていたことは本当だった。
千波は中学時代の監督の言葉を思い返す。
『お前らは、まぁまぁ強い。だけど高校生にもなると周りも強い。もしかしたら一年目は控えに甘んじるかもしれんが、通用する力をお前たちは既に持っている』
身体入れ替わりによって千波は、その力を披露することはできないが、こうして中学時代の同僚より強い人が既に“二人”もいる。
狭かった世界は一気に広がった。
相変わらず千波の本体は、その身体でバスケをやったことがない人が使っている理由が半分、元々の基本性能のせいが半分でポンコツぶりを披露している。
五人対五人の試合をやっているのに一人少ない状態でやっているような空気っぷりも尊敬に値する。
そういえば監督はこんなことも言っていた。
『中村は“芯の強さ”、佳澄は“駆け引きの上手さ”、久世は“我慢強さ”、それで東は――』
思い出して思わず顔がニヤついた。
「そうだよ、僕は楽しんでなんぼだよね。にししっ、見てろよぉ」
千波のバスケは“遊び心”で出来ている。