04:バスケなんてやらない1
代表選手といえば、豪華なメンバーが揃って華やかな舞台へと行くものだ。
少なくとも、同世代の中で一番努力をし、結果を残した人たちが選ばれる。
当時の代表メンバーは、インターミドルで上位に食い込んだチームからほとんどの選手が選ばれていた。他には近いうちにプロから声がかかると噂されている人や専属のコーチを付けてプロ入りを意識している人。
――その中にいた私は正直にいえば浮いていた。
私は誰よりも努力して結果を残したわけじゃない。
公式戦は数えるほどしか勝ったことがない。
プロなんて遠くに感じる事を考えて何かをやったこともない。
――私が選ばれた理由を知るのは、代表チームに帯同して一度の出場機会にも恵まれなかった世界大会後にそれとなく感じ取った。
こう言ってしまうと自意識過剰に思われるかもしれないが、私――キアラ・セラフィムはバスケ選手である前に一人の美少女だった。
アイドルがテレビで華やかに舞い、それぞれが『自分はこうなりたい』と思って何かをする。
そういった強い気持ちを持っていない普通の学生。
勉学と運動をそつなくこなしているからか、身長も高くスタイル抜群、美少女特有の成長するにつれ崩れていくはずの端正な顔立ちも残している美少女半分、美女半分といったとこ。
バスケットボールは体格でするスポーツと言われるように、年相応の少女と比べてガタイのがっちりした人が多く、健康的な容姿の人が多い。そこがかわいらしく、人気が出るというものだが一般論は違ってくる。
特に大して人気のないスポーツを中継する報道関係が特に違ってくる。
あの人たちは、そのスポーツをする少女の中からアイドルが出ることを心の底から喜ぶ。
捻くれた私個人の考えになるのかもしれないけど、私が“それ”に当てはまったというだけの話だ。
客寄せパンダのキアラが、私が代表で貰った唯一のポジションだった。
***
乱暴な口調の男子生徒たちは、接していくうちに意外と良い人たちなのだと分かった。
彼らがどう思ったのかといえば、頭二つくらい背の低い少女より絶対に自分たちの方が強いと思ったための変な優しさだ。
放課後までには、その中の一人と一緒に校内を歩いて回るくらいの仲になっていた。
「俺らは別に高校なんてどうでもいいって思ってる。適当にやって適当に卒業できれば親も満足する。私立サイコーってな」
「どうして、それでも学校へ来ているのですか?」
中身が入れ替わる不思議に合わせて、言葉の壁もなくなったキアラは敬語キャラでいくことにした。元々東千波がどんな人か知らない彼女は、知識にある日本人・小さい女の子・高校生というキーワードでこの場を乗り切るつもりだ。
「日本の学校は、もっと楽しい所。学園祭、文化祭、体育祭エトセトラ」
「お祭り好きかよ。見た目よりかわいい事いうんだな?」
「色々な世界の黒幕が幼女であったら、勝利していたのは逆だったかもしれないのに?」
キアラは二次元と三次元の区別が出来ていない残念な部分がある。
今の言葉を翻訳すると、
『小さな女の子は可愛くありませんか?』となる。
アニメやゲームの世界で、事件の黒幕が少女――特に幼女であると主人公側と和解をすることがある。
少しエッチな主人公の場合は、幼女に手を出したということでヒロインにビンタされるなどして立場が逆転し、結果悪いのは主人公というような謎理論も存在する。
確かに散々悪いことをした相手が幼女だったら、問い詰めるだけでもこちらが悪者に見えてしまう。
「本当、面白い奴だよ」
リーダー格の男子は、東千波がこの学校にいる理由を知っている。
この校舎にいれば嫌でも耳に入ってきたからだ。
それにも拘らず、彼はそのことに触れようとしなかった。
確かに想像を遥かに超えた変人なのは、現在進行形で目の当たりにしている。
そうだとしても、自分と彼女の違いくらいは分別している。
彼女は誰かに求められてここにいる。
それに比べて、自分は……。
男とキアラ――二人が行動を共にした共通の気持ちがそれだった。