05:四つのルール
【ルール】
一:十本連続で由那が決められなければ山田の勝ちとする。
二:スリーポイントラインより遠くからの得点は無効とし仕切り直しとする。
三:またレイアップなどのゴール下から決めやすいシュートも全て無効。
四:由那がボールを持っていられる時間は半分の十二秒までとする。
これらのルールの下、由那は勝負に挑んだ。
ギャラリーは体格差のある女子二人が真剣勝負をするとあって、そこそこの活気がある。
新入生の由那は、クラスメイト達からすれば居眠りの多いのんびりした子という印象しかないのに比べ、対する山田は校内でも有名なスポーツ万能な人だ。
その彼女から試合開始の笛と同時にボールを渡される。
「私はどうしてもバスケがしたいんです。前いたところだと、もう出来ないけど。ここでなら、きっと出来るから……」
由那には中学時代はどこにも居場所がなかった。
その理由はチーム事情や由那自身の問題もあったが、とにかく中学の三年間で彼女がバスケをできていたのはとても短い時間だ。
しかしその短い時間だけでもその学校でレギュラーだった事が、とても凄いということをギャラリーの誰一人として知らない。
それに今の彼女には幼馴染たちから貰った自信がある。
道を示してくれる友人がいて、それを叶えるだけの力も多少なりともある。
少なくとも、バスケを好きでもない人に負けるほど甘いバスケを彼女は知らない。
「……絶対に、負けません」
ボールを受けた由那は、山田先輩から距離を取った。
***
ドリブルを開始する由那を、三咲はよく観察していた。
十本中一本でも止めればそこで終わりなのだから、焦る必要はない。
このルールをまだ本当の意味で理解はしていないが、こちらにアドバンテージがあることは分かっている。
初心者とプロがやっても勝てないくらいのハンデを与えられているとは、山田は夢にも思わなかった。
そして由那の最初のプレーは、ルールを逸脱したロングシュートだった。
今いる場所からのジャンプシュート。
「こいつ本気かっ!」
流れるように自然な動きで放たれたシュートも相当なものだが、ギャラリーがさらに驚かされた事は、そのシュートに反応した山田だった。
元々ある身長をさらに伸ばし、十分距離をとって放たれたシュートに掠るか掠らないかの玉際の気迫を感じさせた。
結局ボールはゴールリングに当たって、カシャンと音を立てて入ってしまうが、その一連のプレーは壮絶な戦いの幕開けを感じさせるものだった。
もちろんスリーポイントラインから外のシュートは全て無効になるため、試合は仕切り直しとなる。
反応速度と身長だけなら超高校生級の先輩に対してとった由那の行動は、いったいどのような目的があったのだろうか。
彼女本人以外は、誰一人として分からない。