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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(決戦編)
233/305

58:最終局面へ


 会場へ由美が戻ると出雲がドリブルで単独突破しているところだった。


 惜しくも守備に間に合った揚羽に止められてしまうが、試合にフル出場している選手とは思えないほど全力全開で気合いの入ったプレーを見せてくれる。


 点差を確認すると、あってないような点差まで追い上げられていた。


 試合の残り時間を考えると由美が出れるのは長くて五分強――なんとかして、それまではリードを保って欲しい。



「うらぁあああ!」



 聞きなれない咆哮に驚き沈んでいた顔を上げると、冬宙が空中で相手のシュートを弾き返していた。


 ベンチに下がった大林の意志を受け継ぎ空中戦で無双を続けている。


 竹春が山田を使わないのなら、これは試合終了まで続くはずだ。


 ターンオーバーしたボールを月見がキープしていた。


 ポイントガードのようなプレーは得意じゃないはずなのに必死に味方が上がるのを待ち、相棒である出雲と得意な形でワンツーパスを決めると一気に前線へ上がった。


 しかし味方が上がるのを待った分だけ竹春の厳しいマークが出雲に付き、ボールを持つ月見もチェックにきた揚羽にパスを封じ込まれている。


 これが逆であればドリブルで切り込むということもできたかもしれないが、多くても二枚以上の面子が上がってこない霜月ではこれで詰みになる。



「先輩! ゴールの正面です!」


「よし後は任せた!」



 どうしても点を取っておきたい霜月は、ボールをカットした冬宙が長い距離を全力疾走してそのままゴール下に向かう。


 後ろの様子を第三の眼で感じとった揚羽は、月見、出雲間のパスでなくシュートを警戒した。


 例えシュートが外れてもオフェンスリバウンドで押し込まれると察知したからだ。


 しかし月見はゴールからまだ距離のある位置に浮き球のパスを出した。


 これではボールを受けてもドリブルしないとゴール下に入れない。



「待って……このタイミングは……!」


「ゴール正面に来た浮き球のパスをそのまま……いれる!」



 そういえば冬宙のファーストシュートは空中で受けたボールをそのままシュートにいったものだった。


 バスケには狙ってそれをするプレーがある。


 しかし体格の都合上ダンクシュートのできない高校の女子バスケットでそれをする人はほとんどいない。


 だがそれをこの場面でやれるよう気持ちを前面に押し出すプレーは、一人抜けたからできたのかもしれない。



「やっぱり絶好調!」


「ナイス、冬宙!! 最高だ!!」



 冬宙と月見がハイタッチをして自陣にすぐ戻っていく。


 そして次に審判の笛が鳴ったタイミングで霜月は、由美をコートへ戻した。


 顧問の説得なんて、彼女に関係のない大人にはやらせなかった。


 今年で定年になるお爺ちゃん顧問は由美のお願いをすんなり聞いてくれた。


 まあ顧問の耳が遠くなっているなんて些細なことは説明しなかった。


 自己責任で出るのだから、試合後に自分で後悔でも反省でもすればいい。



「おまたせ。いない方がよっぽど全国優勝しそうな気が見ていてしてきたわよ」



 素直な感想を述べるが、周りへの感謝の気持ちはいっぱいある。


 ここまで付いてきてくれたこともそうだが、一緒に全国へ行きたいという強い気持ちがコートの外にいてもひしひしと伝わってきたのだ。



「全国でやり残してきたことがある。だから私たちはこんなところじゃ負けない。そうでしょう!!」


「「おぉぉおう!」」



 両チームの士気が最高潮に達して試合は最終局面へ突入する。





 ***


 試合を観戦する真彩も周りの視線を気にせずいつの間にか立ち上がって試合を見入っていた。


 コートに由美が戻ったことで、要所でボールをカットできるようになった霜月は得意な形でカウンターを仕掛ける。


 敵陣の深い所で出雲がドリブルで突っ込むと左から右へゴール下を通り過ぎてしまっていた。



「ここで決めなきゃ女が廃る!」



 上体を反らした出雲が今大会初のリバースショットで連続得点を奪う。


 ここまで隠してきた秘密兵器というよりは思いつきのプレーのようだが、遊びでは何度か決めていたプレー。


 ――さっきの冬宙と言い、今の出雲と言い、ここまで上手くいってしまうと神様に愛されているような勘違いをしそうになるが、それはそれと割り切って由美を中心に陣形が整えられる。


 その陣形の違和感に真彩が熱の籠った声を漏らす。



「これが初めてなんじゃない? 霜月がお姉ちゃんをフォローするような陣形になるって。あくまで状態が悪い自分を見越しての陣形ならお姉ちゃんは未来でも見えているの?」



 コート上の由美に何が見えているのかといえば、何も見えていないというのが正解だろう。


 なぜなら由美はこの日初めてゾーンディフェンスからマンマークに切り替えて試合に挑んでいるのだから。


 試合の要所は色々あるが、最終局面でボールが集まるのはどのチームも決まっている。


 それはエースのいる場所に他ならない。


 由那と由美が互いを視線で牽制する。



「残り時間はあとわずか、このまま行っちゃえよ! 私を倒したんだから、最低でも全国に入ってもらわないと逆に困る!」



 両エースのぶつかり合いだけでなく、シュートに反応しようと構える冬宙もいればパスの機会を伺う揚羽、愛数も、カウンター狙いの月見と出雲がいればフォローに行こうと栄子も長い距離を走る。


 様々なところで勝負の火花は既に激しく飛び交っている。


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