56:永遠の二分間 上
空中で交錯した二人がバランスを崩して落ちたとき、弾けるように二選手が距離を離してボールは地面まで一直線に落ちていった。
両足でしっかり着地した三咲がボールを探すために顔を上げると、コート上の他の選手が一同にこちらを見ているのが分かった。
自分より奥、コート外で着地した子津の方を見ている。
「……由……美?」
そういえば着地する直前に金属の鈍い音がしたなと思った三咲が振り返ると、つい数秒前までコートに倒れ込み微動だにしない子津がいた。
***
試合はどこかを打って意識不明の由美を運び出してすぐに再開された。
その間に竹春はテーピングの終わった由那と三咲を交代し、霜月も大林を下げた。
試合は小さい悲鳴を上げた観客席より淡々と続けられている。
由美がいなくなったことで竹春の攻撃速度が上がった。
指令塔を失ったことで守備の綻びがあるのを見据え、揚羽が強烈なパスを前線へ送る。
霜月の基本戦術がカウンターなら、竹春の基本戦術は規格外のエースを使うこと。
相手が触れないと思った見当違いの場所へ速いボールが入った時点で、竹春のエースは負けない。
「ナイスボール!」
「なんでよっ」
由那は右手だけで勝負に行かないといけないが、それはボールを持って相手がしっかりマークについているときに強いられる制限だ。
パスを受けると同時に相手を抜くなら、そんな心配はしなくていいくらい今の由那はベンチに下がっていた時に気持ちを溜めこんでいる。
***
医務室へ運ばれた由美は、落下時にゴールの足に頭をぶつけたらしい。
外傷は特にないが、切り傷の一つもないのに気絶しているのはとても怖い。
その様子を誰も見ていなかったことと、当の本人が未だ目を覚まさないため詳細は分からない。
試合時間は、由美が退場してから一分と経っていなかった。