47:竹春の新スタイル
滴がベンチへ戻ったときの焦燥感は、大会前に千駄ヶ谷の二條が電話で言っていたことを思い出させた。
『由那はどこが変わって何ができるようになっているのか。それは由那にとって良いこと、悪いこと?』
『由那はあなたたちの犠牲になるために、バスケをやっているなら――』
彼女が本当に伝えたかったことを滴は分からなかった。
由那の過去の試合を見て、周りが凄かった時代の彼女を私たちが再現できるとは思わない。
何か別の理由があるとすれば、単純に……いや考えたことがなかったわけじゃないが――自分たちのせいで由那に無理をさせてしまっているということだ。
トーナメント形式の大会なら勝てば勝つほど相手が強くなる。
それに対応できるように少年漫画のような修行を積むことは現実では難しい。
それは自分たちのことを分かってくれる指導者がいて、短くない時間を使えば真似事はできるかもしれないが、そんな指導者も時間もない。
そのどちらもが今の竹春高校には不可能なことだった。
また揚羽が言うように今日の由那はどこかおかしい。
いつもよりオーバーペースというよりは、由那が自分で勝負に行く回数が異常に多かった。
相手が強固な守備を誇る霜月高校だからしょうがないことなのかもしれないけど、それが滴の中で納得いかなかった。
「ねえ、由那って何か隠していたり我慢していたりしないよね?」
「なんで愛数に聞くのさ。直接いいなよ」
滴が彼女本人に言うのを躊躇ったのは、その答えを聞くのが怖かったのか、それともいつものように平然と無理を隠すような返事を聞くのが嫌だったのか分からない。
とにかく由那に無理をさせないためにも、残りの四人だけでちゃんとできることをする。
「ごめん。そろそろパスを回して相手を崩そう」
「出しちゃう? ついに秘密兵器を出しちゃう?」
「三咲先輩がいないのが残念だけど、たまには由那をびっくりさせよう」
前の試合よりもう一段階上の連携を匂わせて滴と愛数はそれぞれのポジションにつく。
***
客席のアリスの視界には由那と大林、子津がいた。
前のブランクス戦で守備の脆さを見せた霜月は、この試合でもセンターを中心に調子を落としている。
安易な方法だが、空中戦しか役に立たないセンターのフォローとして地上戦は子津に委ね、割り切った形を見せている。
しかし試合はアリスの見ていない場所で異様な動きを見せ始めていた。