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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(決戦編)
221/305

46:タイムアウト


 竹春はエースの活躍がそのままチームに勢いを与える。


 由那は大林、子津コンビのマークになっても構わずゴールを決め続けた。


 しかし霜月にしては中途半端な守備をしている。


 まるで簡単には抜かせないけど何かを狙っているような。


 それを察してか、滴はタイムアウトを取るようにベンチにサインを送る。


 そしてその嫌な予感はベンチへ戻ってきた由那を見れば明らかだった。


 同じような試合展開が前にもあった。


 赤坂高校とやったときに点を取り続けた由那が頬を高揚させて倒れた試合。


 今も試合の序盤とは思えないほど汗を流し、頬は気持ち高揚している。


 考え込む滴を余所に、揚羽はスポーツドリンクの入ったボトルを由那に手渡す。



「オーバーペースなんじゃない? あなたが抜けたら山田さんを出さないといけなくなる。それともそんなことも考えられないほど――キツイの?」



 揚羽は滴より明確に由那の変化には気付いている。


 それでも試合には彼女を出しておきたいと考えているから何も言わない。



「そうよ由那。もっと周りを見てパスを回してもいいでしょ。栄子や愛数は相手の寄せが速くて動きづらそうにしているけど、そろそろ慣れて来ただろうし」


「うん。そろそろオーケイ」「まかせといて!」


「そうだね。自分でも分からないけど、今日は調子が良いみたいなんだ。だから無理をしてる自覚はないんだけど、確かにちょっと疲れてるかも」


「皆聞いて、これからはボールを散らして相手のペースから抜け出そう。由那ありきの攻めは今日のフォーメーションだと難しいから、愛数を中継にしてフィニッシュは私か栄子でいく。でも揚羽さんも打てる位置にいたら、どんどん打って下さい」


「いや私は守備重視でいく。あのセンターがゴール下にいるのにスリーは狙えない」


「それなら私か滴でフィニッシュってことだ。もっと助走をつけて飛び込む。マークに来る人は大して足速くないし」


「愛数のシュート力をついに見せるときがきたね! そういうことでしょ!」


「それじゃあ、いこうか!」



 タイムアウト前の由那は確かに絶好調と言える活躍をみせている。


 マークが二人になってからは、これまで右手一本だけで相手の大型センターを圧倒していたのを、左手も使い全国区の由美のサポートを掻い潜ってゴールを取れているのは大きい。


 ゴール下の狭いスペースでもトップスピードを維持できる由那のドリブルには、止める側の一瞬の判断がゴールに大きく影響する。


 そのため最初に止めに行く大林の挙動が大きくなればなるほど、由美の行動に大きな制限が掛かっている。


 それでも由美を退けたことには変わりない。


 霜月にとっては、前の試合でブランクスの真彩と同じくチームディフェンスでは対応できない選手が由那なのかもしれない。


 しかしこれほどのプレーを“そんな状態”で続けているのだから大したものだ。


 竹春とは対照的に霜月のベンチでは子津と大林が由那のことについて話していた。



「もう田崎を好きにさせる必要はなさそうね。相手の中でも佐須揚羽あたりがそろそろ気付く頃合いね。それに思った以上に状態は悪いようよ」


「確かにビデオで見たのと何か違うな。でもどの試合よりも凄味があるんだけど」


「そりゃあ、左手首を痛めているのに無理にドリブルして、痛みを堪えているのに同じようにはプレーできないわね」


「えっ、そうなの? そんな素振り…………あった?」


「右手一本で抜けるほど、相手はこちらを舐めていないでしょう。その時点で何かを隠しているか罠を仕掛けているかを考えるべき」


「うぬ。そんなものかね」



 一番近くで見ていた大林が気付けなかったのは、相手に翻弄されていたからだろう。


 その直ぐ近くにいた由美は、冷静に考える時間がありワザと左手を使わなければ抜けないように誘導して抜かせていた。


 その時に相手の感情が消えたのを見て確信に変わった。


 現高校界最強の二人とプレーしていたとき、技術を身に着けていなかったときの由那の方が余程怖い相手だった。


 由美は、まるで今の彼女が別人のようなことを口にする。



「これなら、中学時代の彼女とやった方がよっぽど厄介だったわ」



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