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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(決戦編)
218/305

44:私がここにいる理由 上


 ――少し前。


 目の前で勝負に勝って、試合に負ける人を見た。


 女子バスケットボールの全国大会。


 昨年度優勝を相手に霜月高校は全然負けていなかった。


 エース同士の衝突で見れば、五分の勝負をしている。


 霜月のエースは一対一の状況では絶対に抜かれないし、例え人数的に不利な状況でも守りきる強さを持っている。


 ただ勝利を手にするのに足りなかったのは、ほんの少し周りの力が不足していたこと。


 この大会を圧倒的なスコアで連勝してきたチームに、僅差で敗れたのは誇りに思って良い。


 素人の淡い期待なのかもしれないけど、子津由美は私たちにはない何かを持っていていつの日か頂点に立てるとその時に思った。





 ***

 私の通う学校がバスケットボールで全国大会に出場するほど強いとは知らなかった。


 それこそ学校の正門から見える位置にある垂れ幕に



『霜月高校 女子バスケットボール部 全国大会出場』



 と書かれていることに全く気付かないくらい。



 女子バレーボール部の控えとして遠征に行った。


 散歩をしていると、自分と同じ制服を着た人が大勢いることに気付いた。


 そういえば今週末に“何か”あるとホームルームで担任が言っていた気がする。


 頭の中の記憶の残滓を拾うより先に、つまらない合宿を放棄して会場へと足を運んでいた。


 一面が人で埋め尽くされたそこは、たかが高校生の試合をしているとは思えないほどの熱気が伝わってくる。


 その中心にいるのが同級生だったことが、私の中では衝撃的だった。


 試合を見ても中高とバレー部だった自分は、どっちが勝っているのかだって定かじゃない。


 後から知った当時の子津はというと、一年の夏からレギュラーに定着したが、彼女の中学時代は中の上程度の選手。高校へ上がって直ぐに通用する選手では決してなかった。


 対する高円寺高校は全国で無名ながらも、この年から同じく一年でレギュラーをする二選手によって劇的な変化を遂げている。


 いわゆるそのスポーツにおけるこの世代の天才が高円寺に入った。


 当時から堅い守りを誇る霜月が、高校生対中学生にしか見えないのがその証拠。


 そのくらい――現代の女子バスケットボール界の頂点に立つことは果てしないことだったらしい。


 霜月高校は地元の予選ではしたことのないような大量失点で全国大会の幕を閉じた。





 ***

 ――――冬になった。


 夏にあるインターハイとは別に冬にもウィンターカップという大きな大会がある。


 その全国大会のベスト十六を争う場所でまた霜月対高円寺――一年生で副部長の子津由美と世代別代表のエースとして世界と戦ってきた二人との試合は半年前ほど荒れなかった。


 霜月は子津が先輩後輩関係なく指示を飛ばすようになり、中学から上がりたてで身体がまだ出来ていない自分の代わりに周りを上手く使い失点を最小限に抑える。



「有原先輩はもう少し前で構えていてください。後ろのフォローは名古先輩がお願いします。小泉先輩は右へのドリブルに反応が遅れているので、わざと左を抜きやすいようにして、相手を左へ誘ってください。相手もそんなに上手じゃないですから」



 世代別代表クラスの二人もゴール下の乱戦にならなければ、基本的に一人で来ることが多いので要所を子津が締めることで試合の前半は無力化することができた。


 変化があったのは後半早々に高円寺の二選手がギアを上げてきたから。


 チーム力を高めてきた子津に対して二人は余裕の表情でいつも通りのバスケをする。



「佳澄はスリーを入れる気はないの? あんまり調子悪いなら代えてもらおうか」


「そういう八重の方こそゴール下に入らないのはナゼ? あぁ『入らないん』じゃなくて『入れない』のか……そういうことね」


「言ってくれるなぁ」


「そっちこそ」



 高円寺の中村八重と野田佳澄は、パワードリブラーとスリーポイントシューター。


 どちらの武器も高校へ上がって直ぐの少女がするプレーでなく、大人顔負けの迫力と完成度を持っている。


 それを前半では良いところなしに終わり苛立ってきたのかと思えば、二人は喧嘩するほどなんちゃらというように気合いを入れてからが、本当の姿を見せる。


 子津がシュートコースを読み指先が振れようが、ぶれずにゴールへ吸い込まれるスリー。


 何人いても構わず飛びこみ、物理法則を無視したようなダンクシュート。


 この二人の後半の快進撃が止められない。


 そうなると攻めることが得意でない霜月は子津が攻めに加わるが、そんな浅知恵は軽く跳ね返されてしまう。


 お互いに上級生の実力が決して高くないチームで、これからのバスケット界を背負う一年生がぶつかれば、現時点で実力が上の方が必ず勝つに決まっていた。





 ***


 ――そして、


 春が来て学年が一つ上がり、クラス替えがあった。


 偶然にも同じクラスに彼女の姿があったことで私は声を掛けてみることにした。


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