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10分間のエース  作者: 橘西名
地区予選(決戦編)
216/305

42:四点プレー


 霜月の誤算は田崎を大林一人で封じられたこと。


 霜月の分析した竹春は、部を結成して間もないがドリブル・パス・シュートが一定のレベル以上あり、フィニッシュまでの連係がとてもスマートなチーム。


 個々の選手が自信のあるシュート持っていて、その個性が他の人の個性を潰さない。


 そして質の高いフィニッシャーがいることが何より大きい。


 多少守備に問題を抱えていようと試合に勝つためには相手より多くの点を取らなければならない。そのためには点を入れることが必要不可欠だろう。


 それに田崎と霜月高校は無関係と割り切れない間柄でもある。


 その理由の大半は、彼女の中学時代の同僚に関係しているのだが、言わずもがな分かるだろう。


 過去の全国大会で霜月は、その先輩にあたる四名と試合をして勝ち負けを繰り返している。


 霜月に由美がいるように、竹春にも頭一つ抜けた選手がいるとすれば、田崎といって何ら不思議はないだろう。


 そのため彼女に関しては、これまでの試合を見たというより『彼女の中学時代のスタイル』を研究して、高校での経験を加えた推測で試合では対応している。


 しかし由美の眼には田崎のプレーは予想とは全く違うものに映っている。



「(わざわざ右を抜きに行った?)……角度がついてシュートが難しくなるだけなのに。切り返して他の選手に寄せられるのを避けたのかしら」



 由美が疑問に思うのは、田崎があえて彼女自身を窮地に追い込むプレーをしたことだ。


 彼女の位置から左に切り返せばゴール正面からシュートを打てて、俊敏性に欠ける大林なら簡単に振り切れたはずだ。


 それくらい基本的なことを彼女は捨てて、何を守りたかったのだろう。



(ファーストシュートで緊張した?)



 由美も彼女個人の実力は認めている。


 昔、現在の高校女子の頂点に立つ二人と肩を並べていたはずの何かを彼女は持っている。



「……これがもし『右を抜きにいった』のではなく『右にしか抜けなかった』としたら……」



 由美は基本的に攻撃へ参加しない。


 その理由は色々あるが、代表戦のときにそういう役割をしたのがキッカケだったはず。


 攻撃のセンスがないわけでなく、それ以上に守備に大きかったからだ。


 そのため霜月が攻撃をしている間、こうやって状況を分析する時間がある。


 試合が始まり、実際のものを見た末での調整をここでする。



「ナイスシュート、大林」



 前線へ浮かせたボールを大林がゴールへ叩き込む。


 ダンクシュートなんて守備特化の霜月にしては異質に映るかもしれないが、決してそういうわけではない。


 それは霜月の攻撃に決まったパターンはなく。


 攻撃の核になる選手がいないのは確かだが、各選手の得意分野を伸ばして相手に的を絞らせない自由奔放さで点を入れているため。


 もちろん精度の低さは、カウンターにすることで誤魔化している。


 その代わり守備になれば、由美を中心とした組織的かつ相手に応じた全員の動きを洗練している。


 由美は試合前の打ち合わせで竹春の弱点をはっきりとは言わなかった。


 その理由は総合力で劣るチームを侮る原因の一つに、



『こうしていればこのチームは大丈夫』



 という安心感で油断を招くからだ。


 そのため簡単な合図、陣形の確認をして試合に挑んでいる。


 あとは試合の中で上手く由美が指示を出していけばいい。



「出雲は大塚をマーク、あのサイドを駆け上がってくる人よ。月見は滝浪をマークね。少し手こずるかもしれないわ」



 竹春で決定力のある二人は、走攻守の揃った二人に任せる。


 守る側の視界から外れるような俊敏な動きができる大塚は要注意だが、マンマーク気味に一人を付けておけば無力化できる。それを滝浪か田崎がカバーして上手くやっているがそうはさせない。



「出雲は抜かれなければいい。月見は動きを制限させて」



 由美は直接声で指示を飛ばした二人以外にも、相手に分からないように簡単な手の合図で指示を出す。


 ブランクス戦では上手く機能できなかったが、本来の霜月の守備が披露される。


 竹春は大塚がボールを奪われていた。



「栄子はボールを持ちすぎ!」


「……滴だって、遠い」



 竹春の攻撃を先読みした守備は、滝浪から上下、大塚と続いたパスを栄子のところで釘づけにした。


 走力だけで振り切られないように出雲には無理を言ったが、そこさえクリアすればパスに自分の意志のない選手を規定の24秒経つまで何もさせないのは簡単。


 フォローとしては、大塚はコートの左側を主戦場にしているのを考慮すれば、コート全域は見なくていい。


 出雲が見られないエリアに味方を誘導し、パスコースを封じる。


 ドリブルが拙く隙が多いといえども、相手の方が速い分、取りに行くのはいくらかのリスクを伴う。それより誘導してコースを限定させる方がずっと簡単に相手を封じ込める。




 これを一つ上の次元で対応すれば、守備と両立させカウンターに繋げられる。


 結果として、一回分の失点を防ぎカウンターで計四点にできる理想的な考え方だ。


 霜月はこれを繰り返していく。


 ただし前者が強力な分、点差は自ずとついてくる。



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