40:右拳の痛み 下
一年前の準決勝戦。
選手以外の誰かの都合で試合に出られなくなるのは間違っていると思っていた。
戦力にならない三年生がいても、私たちだけで全国へ行ってやるという意気込みが見事に空振りしたのは、試合が終わった後に痛感した。
『まだ私たちの全ては見せていない』
『まだやれたはず』
『こんなところで、どうして負けなきゃいけないの?』
***
十有二月学園との準決勝戦を途中で交代させられて、コーチを殴打し退場になった佐須揚羽は本当に周りのことが見えていなかった。
今になってみれば心臓が締め付けられるくらいの愚行をしていた。
試合が終わってもなかなか控室に誰も戻らない。
試合中でなければ会場に戻って煩く言われないだろうと当時の揚羽は思い、様子を見に戻ると、そこには対照的な人たちがいた。
片方は主力が怪我をして絶体絶命のピンチの中を創部一年目で全国進出が決まった学校。
もう片方が個々の実力なんか関係なく、大粒の涙を流す人たちがいる自分の学校。
これをやってしまった、とそれを見て酷く痛感した。
当時の竹春はポイントガードが代えの利かないポジションで、点を取るのが当時特待で入って現在はブランクスに所属する三人の役割。
彼女たち三人がローテーションで攻め方を変えることが相手にとって脅威だった。
それはようやく慣れたところで次の手を打つように、一年生枠二つを効率よく使っていたのだが、当時のコーチもよく考えていたのだと今なら思える。
揚羽たち一年生の方が確かにバスケは上手だった。
それは紛れもない事実だが、先輩の方が気持ちの面で遥かに彼女たちより強いものを持っていた。だから彼女たち一年生は悔しくても悲しくても誰一人泣かなかったのだろう。
その方が強いと勘違いしているくらいに何も分かっていなかった。
***
直ぐに控室に戻ると竹春高校はセンターなしのフォーメーションで打ち合わせをする。
口上として、霜月の大型センター大林を封じるためだと適当に言っておく。
そのポジションへリバウンドを完全に捨てた選手を当てる。
センターの経験は三咲以外にないが、彼女ならどうにかしてしまえそうな雰囲気を感じさせる。
C、田崎由那
PF、大塚栄子
SF、滝浪滴
SG、上下愛数
PG、佐須揚羽
もうすぐ始まる試合は、消耗した二試合目だからこその底力が試される――そう単純なものじゃない。
ここへ来るまでに積み上げた少女たちの努力や想いの強さが顕著に表れるものとなる。