34:蛇の道
三咲が抜けた竹春は、五人目として来夏を投入した。
攻守において穴になるこの一瞬の隙を相手が見逃すはずがなかった。
「点差を縮めておこうか!」
守備的位置に下がる由那と栄子で相手の進行を遅らせるが、センターが抜けたことによる綻びを攻め立てるようにゴール方向へふわりとしたボールを上げられる。
「あいつ以外には負ける気がしないなあ!」
秀明の沙織が絶妙な加減で跳躍する。
ゴール下にいた滴も負けじと飛ぶが、経験値の差から全く勝負できないタイミングで飛ばされていた。
滴は、つい先刻の三咲がやられたように空中で何かされるのではないかと警戒したせいで反応が遅れたのかもしれない。
「もうバテテきたの? まだまだこれからでしょうに」
沙織からすれば標的にしていない一年生に無駄な集中力を使う気はなかった。
ただでさえルール上、五ファールで退場になるのだから、上手くやれないことを考えると無駄は省いて正解だ。
山田三咲はまた出てくるだろう。
止めを刺すにはファールを一回もらうくらいじゃないとダメだ。
もう一人の佐須揚羽はパサーと聞いているから、よりファールを重ねないといけないだろう。
それに沙織自身は、高校へ上がったばかりの子供相手に出し抜かれるほど中途半端なバスケをしない。
彼女自身が自覚して発展させてきたバスケは、どんな状況でも冷静になれて的確な動きがとれることだ。
だから三咲との空中戦でボールこそ奪われても、肘鉄を相手の腕に叩き込む芸当ができた。
そんなバスケが、秀明が一年前から目指してきたバスケだ。
それを実現するために流した汗や努力の数は他のどの子にだって負けちゃいない。
ただ才能がなかった。
ただ運がなかった。
ただ相手の方が強かった。
たったそれだけのことで負けるのが本当に嫌だったから、彼女たちは蛇の道にたどり着いたのだ。