EX.勝つために
身近なところで当たり前のように繰り広げられた日常は、思っていたより気付かないものなのだと思った。
私の場合は、中学時代のある部活動が結構、有名だった、という話。
学年が一つ上の人は県を飛び越えて全国でも有名な選手と言われていて、同級生はこの間、外国へスポーツ留学するくらいの選手だったというのは、高校へ入って同じ部活に関わってから知ったことだ。
私のいた“千駄ヶ谷中学”は、女子バスケットボールの頂点に君臨する化け物が大勢いる場所だった。
その彼女たちが作った現在の高校女子バスケットボールは、数年前と比べれば格段と強くなっている。
私は選手ではないから、実際にどこがどう変わったのか分からない。
けど、中学校の延長だったものから、大人たちのいるプロの世界への前段階へと変わったのは明らかだ。
今の高校生と大学生がやったら、上位の高校なら同じかそれ以上の実力を秘めている。
そういった現実を受け止めて私たちが考えなくてはならないのは、あくまで高校生レベルの自分たちが勝つために、どうするか――。
***
ブランクス敗退によりトーナメントが動いた。
午前中最後の試合は由那たちのいる竹春高校。
この試合に勝った方がシード校の霜月高校と戦うことになる。
霜月高校を見に全国から来た偵察はほとんどがその場を一旦去り、物好きな人が残るだけとなった。
その中には竹春高校を見るために残った人も僅かにいる。
例えば、中学時代に竹春高校にいる誰かのことを知っている人や彼女の先輩など。
まさかこんなところで彼女に会うとは思わなかった人達が次の試合を待ちわびている。
一人は先輩として後輩の成長を楽しみにする。
「一緒に戦った中学時代から、ずいぶんと経っている。この間のお遊びじゃ見せない本気のあいつを見れるかぁ?」
一人は雨に濡れる彼女の姿しか見たことがない。敵対するチームの一員。
そして勝つことに貪欲な思いを持っている。
「次の試合で何が起きても恨みっこなしですよ。広いようで狭い全国にはこういうやり方で行くしかないのです」
悔いが残らないように色々な思惑が錯綜する中を彼女たちは戦う。