22:原石のまま3
午前の部、二試合目はシード校が先に試合をして、その次の試合の勝者同士が準決勝を戦うことになる。シード校がある程度優遇されるのは仕方ないけど、休憩時間が多いのはやっぱりずるい。
とにかく、その準決勝戦に勝ったチームが全国へ行くことが出来る。
アップが済み、霜月高校とブランクスがコートに入ってくる。
この日は、全国でコンスタントに成績を残す霜月高校が全国を決めるということで、他県から来ている偵察の人が多い。その中には実況を愉しむまた違った人もいるが、これまでの試合とは異なる雰囲気があった。
会場の雰囲気に飲まれないように気を張りながら両チームの選手が整列した。
霜月高校はこれまでの試合と同じように攻撃の要である月見と出雲、守備の要である子津を含めた全員三年生。
ブランクスは澤野と巻田、茶倉のトリオと真彩で、こちらもこれまでと同じ顔触れだ。
前評判ではチーム力はブランクスが上、個人では霜月と言われている。
両チームのキャプテンが握手を交わす。
「子津さん、よろしく」
「こちらこそ……澤野さん?」
「名前は今日の試合で覚えてもらうってね」
ジャンプボールはブランクスでセンターの澤野が制し、対霜月高校の第一フォーメーションが展開された。
「茶倉、一端キープしといて」
「……りょうかい」
フォワードの茶倉に預けて澤野と巻田ともう一人が左に寄って右を大きく空けた。
それに釣られるように霜月も左に寄るが、右を駆け抜ける一人――真彩がいた。
霜月としても同じ高校に通いう後輩のことは警戒するにこしたことはないが、霜月の選手は抜かれないという自信があった。
まずは月見が前に入り足を止めさせ、そのフォローに出雲が備える。
一人に対して二人以上がマークするわけじゃなくて、一人が一人以上をマークしているから総合的な守備力は五人よりもっと大きな数字になる。
それが基本的な守り方で、そういった守備の包囲網を打ち破る力を持ったのがトリオのプラスワンの役目だ。
「最初の獲物♪」
「……全然、似てない」
赤髪の真彩を見て、月見がぼそっと呟く。
確かに由美と真彩は姉妹であってそうでない雰囲気がある。
試合になればスタイルの違いから、それが顕著になるのだろう。
姉である由美から真彩の弱点などを聞いていない月見はいつも通りいくしかない。
「ついてきてよ」
「もちろん、そのつもり。それと先輩への敬語は――」
横へスライドしていく真彩のドリブル。
ドリブル開始がアクセルを踏む合図なら、様子見に来ている相手はその加速力についていけない。
「うざい。ほんっと言葉だけ。どいつもこいつも格下!」
「……うっ、見ていたのとはやっぱ違うか」
真彩のスライドに一歩で遅れたことを見逃さず、直角に切れ込んで相手を置いていけるのは、ドリブルに入ってからスピードが常に加速しているからだ。
このままゴールまで一直線、それが普通の相手だ。
しかし今の相手は大会屈指の守備力を誇る。
フォローはすぐに入ってきた。
「簡単に抜かれすぎ。これじゃただ罠に掛かりに行っただけでしょうが」
「フォロー、さんきゅ」
足を止めた真彩を挟むように正面に出雲、後方に月見。
だがそれだけじゃ真彩の進撃は止められない。
「格下らしく、二人付けたことはいいね。でもさ、私の領域はそこじゃないよ」
「なに笑って」「油断すんな」
ギアの上がっている真彩は普通ならスピードを落とすところを、さらにもう一段ギアを上げた。
「「なっ!」」
前後二人の声が重なり驚く中を、真彩は平然とプラスにもマイナスにもならない方向へ飛んで前線にパスを送る。
ゴール下では出雲のマークから外れたフリーの澤野がゴールを決めた。