20:原石のまま1
元竹春高校女子バスケットボール部の三人組は、四月の頭から今までのバスケ部のことを良く見ていた。
千駄ヶ谷中学を卒業して、こんな無名の高校へ来た物好きな子が一人。
その子は素人を集めて部を再開させた。
しかし一年前に部の活動が停止した理由が暴力事件ということがあって、ある条件を突き付けられた。
全国ベスト4の赤坂高校と試合をして勝つこと。
それが出来なければ部の再開は認めないということだ。
赤坂高校といえばインターハイの優勝候補に上がるほどの強豪校だが、一年生中心の現女バスは臆せず戦った。
その試合を大勢いた観客に紛れて見ていた感想としては、バラバラだった四人を集めた一人を信じて、チームの五人が一致団結していた。それは去年のチームにはなかったものだ。
その試合を見ているだけで感情が動かされた。
羨ましくて。
悔しくて。
どうにもならない感情を抱いて。
もう出場することがないと思った、夏の全国大会の予選へクラブで出場することを決めた。
クラブチームの総合力は一般の部よりだいぶ高いため嫌がられることがあるけど、それなりのハンデは背負うことになるので相手に悪いと思うことはない。
彼女たちのクラブは、各校のエース級が集まっているクラブでもなければ、プロへ直結するようなところでもない。
ただ普通では考えられないバスケをするために集まった人が多くいるチーム。
そのため『ブランクス』は目立った成績を残していないが、今年は個人でダイヤの原石のような子がいる。
その子の現在の肩書――誰々の妹というのは本人が気に入っていないけど、攻撃型というスタイルは自他共に認められている。
多少言動に問題ありでもチームを牽引できるだけの力を持っている。
それを分かっているから、彼女は誰とでも対等になろうとする。
竹春高校へ不法侵入して揚羽に捕まった真彩は、頭を深く下げて陳謝する。
「先輩たちに言われて近くに来ていただけです。すみませんでした」
揚羽は真彩にではなく彼女の現チームメイトである同級生に厳しい視線を送った。
それを意に介せず真彩は自己主張激しく前へ出ていく。
「あなたには聞いてない。聞いてるのはそっちの三人。どうしてここへ? 大会で当たるチーム同士の試合や練習はご法度のはずよ」
「今は私と話をしましょうよ。
謝ったんで、今度はこっちのターン。
簡単に言うと、揚羽先輩にチームに戻ってきて欲しかったんですよ。先輩が高一、私が中三のとき大学生の男共を相手にしても圧勝したんだから、次の試合はこっちにいるべきですよ」
「それはできない。一度試合に出場した選手はそのチーム以外の試合には出れない」
「へぇ~、クソの役にも立たないチームメイトよりは、私がいるこっちの方が先輩の実力を存分に使えると思いますよ。そうに違いありません」
「……そうね」
一辺の曇りもない少女の言葉は、揚羽の胸にチクリ刺さる。
顔を挙げれば三人が微妙な顔でこちらのことを気にしていた。
「今、時間あるのよね」
「ふーん。悪い顔してる」
他校同士の試合や練習はダメだが、同じ学校の生徒同士の練習はご法度に入らない。
揚羽の頭の中で、元竹春と現竹春のちょっとした遊びが閃いた。