18:エピローグEX1
次の話につながるなんちゃらです。
18:エピローグEX1
ある日の千駄ヶ谷中、バスケ部専用体育館。
「しんざきー、バスケやろうよ~」
金髪美少女が、黒髪短髪の新崎という少女に後ろから抱きついていた。
「暑苦しいよ、リン。休憩中なんだから休憩しよ?」
リンと呼ばれる少女はフルネームが『キャサリン・バックヤード』というアメリカ人と日本人のハーフ。
産まれも育ちも日本で、この間の家族旅行で初めて第二の母国に行ったくらい日本人なのだが、外見はそう見えない。
一切不純物のない綺麗な金色の髪に、日本人離れした運動能力を引き出す四肢はまだ発展途上ながら見事なプロポーションをしている。
日本人である母親譲りの漆黒の瞳と流暢な日本語くらいが、リンの外見で唯一の日本人らしさといったところだろうか。
「この間さ、初めてアメリカにいったんだぁ」
「あ、これ、離れる気ないね。分かったよ」
「普通にストリートバスケをしていて驚いたよ~」
「そりゃあアメリカと言えばバスケットの本場だからね。確か国際大会で記録上ほぼ優勝し続けてるしね」
「ふーん、そんな強いの? うちのチームを見てもストバスの人たちに負けてるなぁと思ったけど」
「ははっ、リンも混ぜてもらってたら苦戦したんじゃない?」
「圧勝だったけど? リンがバスケで負けるわけないじゃん」
「容赦なしに相手を蹂躙するのを想像できて怖いよ」
「なんといっても日本一のチームの新のエースだからね」
途中から千駄ヶ谷の一員になったリンは夏はまだ選手登録がルール上出来なかったが、冬には公式戦に出ることが可能になる。
「まっ、しんざきーを倒さないとエースにはなれないんだけどね。リンの方が絶対に強いのに、紅白戦はいつも負けちゃうんだよなぁ。不思議だよ~」
新崎は不満をもらすリンに微笑み返すが、心の中では表情ほどの余裕はなかった。
監督の判断でエースをしているが、新崎のスタイルはあくまでも周りを活かすバスケであって、絶対的エースと言われると困ってしまう。
「しんざきのフェイクパスなんてもう一年以上見てるのに、未だにまともに止めたことがないんだよ~。どうなってるの~」
「秘密。いくらチームメイトでもそれは私のアイデンティティーだから教えられない」
「リンがいないときに勝手に負けたくせに?」
リンの声のトーンが少し下がった。
彼女はチームの一員になって日は浅いが、自分のいるチームが最強であり続けることを大切に思っている。
そのため彼女がアメリカにいってる間に負けたことに誰よりも怒っていた。
なにより、彼女が一度も倒せなかった相手を倒されたことが特に気にくわない。
「いつかそいつは潰すよん」
普段明るい子が別人のような顔でいう。
「それが例え監督の指示でフェイクパス禁止だったとしても、許せないな」
新崎は「いつかはリベンジするよ」と小さな声で言った。
*余談*
「そういえばここって面白いものがあるよねー」
リンの見ている方向には、各年度優勝時の選手一同の写真が飾られていた。
「しんざきーは、先輩に憧れてここに入ったんだっけ?」
「うん、由那先輩!」
新崎が瞳をキラキラさせながら言うので、その人のことを知らなくても新崎の大好きと言う思いは伝わってくる。
新崎は何かとその先輩のことを話したがるが、リンの知る限りその先輩のいた世代は、前監督の率いる千駄ヶ谷中が唯一優勝出来なかった年のはずだ。
そのときのエースでもない選手に、自分が認める新崎がこだわっている。
その人を知らないリンは少なからず疑問を抱かずに入られなかった。
きっと何年か先、その先輩と新崎がいる高校を相手にするまでこの疑問は晴れないのだろう。
夏の大会でもそうだったが、監督が変わりシステムが大幅に変わった今年の千駄ヶ谷中は、新崎以外のレベルが例年よりもだいぶ劣っていた。
それを補って余りあるハーフの少女は、冬の大会で暴れまわって千駄ヶ谷のブランドを再び蘇らせる活躍をした。
その中学を追い詰め接戦に持ち込んだのは、ある地方の選抜メンバーでつくったチームというのはまた別のお話。
***これにて中学生編は終了です。
短いような長いような期間ありがとうございました。次からは新崎の慕う“由那先輩”を中心にした高校編になります。時間軸的にはこの話と同じで、上園青空が高校二年生のときの話になります(新崎たち中学生組は中学三年生)。できれば千駄ヶ谷VS松林中までやりたかったのですが、話が間延びしそうでしたので見送ることに。また短編などで書けたらと思います。新崎個人に関しては高校編で出番がありますのでまあ千駄ヶ谷の現エースがどんなものかご期待ください。それではまた、次の話でもよろしくお願いします。
次話からは高校生編になります。